研究課題/領域番号 |
21K14589
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
笠原 健人 大阪大学, 基礎工学研究科, 助教 (10824469)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 分子動力学シミュレーション / 分子会合 / 溶液統計力学 / 2分子反応ダイナミクス理論 / 拡散律速反応理論 / タンパク質–リガンド結合 |
研究実績の概要 |
本年度は,2分子反応理論の一つである再帰確率理論と分子動力学(MD)シミュレーション法に基づいて,ホスト-ゲスト分子会合過程に対する速度定数を分子レベルで計算・解析する理論的手法を開発した.新規手法では,ホスト,ゲスト分子が解離した状態,2分子が拡散により接近して形成される中間状態,およびゲスト分子がホスト分子の結合ポケット内部に挿入されて形成される会合状態からなる3状態モデルを考える.再帰確率理論に基づくと,中間状態-解離状態間の平衡定数K*,中間状態から結合状態へ状態変化するときの速度定数k_ins,および初期時刻0で中間状態に存在していたゲスト分子が時刻tで再度中間状態に見出される確率(再帰確率)P(t)を用いて,会合過程全体の速度定数k_onが数式的に表現される.つまり,中間状態の熱力学的性質(K*)と動力学的性質(k_ins,P(t))の両方の観点から,会合キネティクスを系統立てて解析することができる.さらに,再帰確率理論は,他の多くの理論とは異なり系の均一性を仮定する必要がないため,混雑環境など不均一系での分子会合キネティクスへの展開が期待できる.新規手法の適用例を以下に示す. (1)β-シクロデキストリン(ホスト)とゲスト分子(アスピリン,1-ブタノール)からなるホスト-ゲスト系への適用,得られた速度定数は実験値と概ねよい一致を示しており,またアスピリンの方が1-ブタノールの場合よりも速度定数が大きいという実験結果を再現できた.上記で述べた系統的解析により,アスピリンが1-ブタノールよりも会合の速度定数が大きい理由が,β-シクロデキストリン-アスピリン中間状態が1-ブタノールよりも安定であるためであることを示せた. (2)タンパク質(FKBP)-リガンド(4-ヒドロキシ-2-ブタノン)結合過程への適用.得られた速度定数はMD法の先行研究の値とよく一致していた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定として掲げていた,新規手法の開発は終了し,β-シクロデキストリンと小分子からなる会合系への適用した研究は,学術論文として出版済みである.また,タンパク質-リガンド結合系への適用についても順調に遂行できており,学術論文として投稿するための取りまとめを行っている段階である.
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今後の研究の推進方策 |
本年度では,新規手法の開発と水溶液系での分子会合キネティクスへの応用を行なった.今後は,混雑環境系など不均一環境へ展開し,分子会合キネティクスに対する不均一環境の影響を明らかにするとともに,新規手法を種々の拡張アンサンブルの手法と組み合わせることで,より長時間スケールの結合キネティクスの記述が可能な方法論へ拡張する予定である.
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