研究課題/領域番号 |
21K14592
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研究機関 | 岡山理科大学 |
研究代表者 |
高橋 広奈 岡山理科大学, 理学部, 講師 (00803529)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 共鳴IR法 / 蛍光タンパク質 / 発色団 / 赤外スペクトル |
研究実績の概要 |
本研究では、過渡蛍光検出赤外(TFD-IR)分光法と顕微鏡技術を組み合わせた共鳴IR法により、蛍光タンパク質発色団部位の選択的な赤外分光計測法を確立し、発色団部位の局所的な構造解析を行うことを目的としている。 共鳴IR法を蛍光タンパク質に適用すると、可視光を用いた場合はタンパク質部位はエネルギー的に励起一重項状態に励起できないため蛍光が発生しないが、発色団部位からのみ過渡蛍光が発生する。この強度をモニターしながら、赤外光を波長掃引することで、発色団部位のみの赤外スペクトルを得られる。 本手法を用い、蛍光タンパク質turboGFPを測定した結果、非常に高いS/N比で発色団部位のみの赤外スペクトルを選択的に得ることに成功した。2021年度にはturboGFPと同一の発色団を持ちながら、吸収・発光特性の異なる4つの蛍光タンパク質に対して赤外スペクトル測定を行ったところ、全ての蛍光タンパク質において発色団部位のみの赤外スペクトルを選択的に得ることに成功した。それぞれのスペクトルを比較すると、ピークの現れる位置や相対強度などのスペクトル構造が異なることを見出した。この違いは発色団の構造の違いを反映しているはずであり、解析を進めることで、局所的な構造解析が行える。 また、ラマンスペクトルが測定されている蛍光タンパク質については、共鳴IRスペクトルにおいていくつかのバンドがラマンスペクトルに比べて増強されることも分かった。この強度パターンにはFranck-Condon因子が寄与しており、励起状態における構造変化の有無に関する議論も可能であると期待する。 得られているスペクトルはS/N比が非常に高く、上記の解析が十分に行えるはずであり、今後、発色団の分子構造、電子状態の解明を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
蛍光タンパク質turboGFPおよびそれと同一の発色団を持ちながら、吸収・発光特性の異なる4つの蛍光タンパク質について、共鳴IRスペクトルを測定することには成功している。また、ラマンスペクトルが測定されている蛍光タンパク質については、共鳴IRスペクトルにおいていくつかのバンドがラマンスペクトルに比べて増強されることも分かった。しかしながら、コロナ禍において、蛍光タンパク質試料の提供元への訪問などが困難であったこともあり、これらのスペクトルの詳細な解析は現在進行中であるのが現状である。 また、本手法で利用するTFD-IR分光法は従来、振動緩和現象の観測に利用されてきた。蛍光タンパク質においても、バンドごとに振動緩和過程を観測することで、発色団各部位におけるタンパク質との相互作用を解明できると期待していた。実際にいくつかのバンドについては、振動緩和過程の観測に成功しているが、上記と同様の理由で、詳細な解析は若干遅れている。 加えて、自作セルに入れた水溶液を用いた光路調整法は、共鳴IR信号を安定して得ることが難しいという、新たな問題点も明らかとなり、今後の研究推進のためには、光路調整法の改良も行いたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
既に得られている、非常に高いS/N比の共鳴IRスペクトルを利用し、ピーク振動数をもとに化学結合レベルでの分子構造解析を行う。また、強度パターンにはFranck-Condon因子が寄与しており、励起状態における構造変化の有無が関係するため、これを利用し、蛍光タンパク質においても共鳴IRスペクトルの信号強度より発色団の電子励起状態における構造変化を明らかにする。 本手法で利用するTFD-IR分光法は従来、振動緩和現象の観測に利用されていた。振動緩和速度は、振動エネルギーの散逸の速さを示しており、周囲との相互作用が強い場合は速く、弱い場合は遅いことから、発色団と周囲のタンパク質との相互作用の大きさを明らかにできる。特定のバンドごとに振動緩和現象を観測することで、その結合(部位)におけるタンパク質との相互作用を明らかにできるはずである。 今後の研究において、振動緩和現象の観測を全てのバンドに対して行い、既に得られている共鳴IRスペクトルと併せて解析することで、発色団の分子構造、電子状態および周囲との相互作用が吸収・発光特性にどのように影響するのかを明らかにする。 また、光路調整上の難点を解消するために、薄膜試料を用いる方法を検討する。具体的には、色素を混ぜ込んだ樹脂をミクロトームなどで薄片化し、これをスライドガラスに吸着したものを、基準試料として用いることで、試料位置の調整が容易になる、またセルや蛍光タンパク質試料へのダメージを軽減できると期待する。これにより、レーザーの光軸合わせ等がスムーズに行えるようになれば、計画推進がより速やかになる。なお、基準試料は自作もしくは外注予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナの影響もあり、学会・共同研究などが全てオンラインが中心となったため、機器の購入(物品費)や旅費の仕様に遅れが生じている。 2021年度に予定していたた光学部品類(消耗品)の購入等を2022年度に行う。
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