キラル(左右非対称)な金属ナノ構造の近傍に局在するキラルな特性を有する近接場光のスペクトル特性を明らかにできれば,キラル近接場光を用いた高感度なキラル分子分光法の開発が期待できる。本研究では,ナノ構造を担持する基板によって伝搬光に変換される近接場光(禁制光)を偏光解析・分光検出することで,キラル近接場光のスペクトルが迅速に得られる手法を開発することを目指している。本年度は光学系の構築に取り組んだ。本研究の最終目標は近接場光の情報を含む禁制光の円偏光度のスペクトルを計測することであるが,(ア)スペクトルの計測方法として分光器と二次元検出器で計測する方法と(イ)モノクロメーターとシングルチャネル検出器で計測するが考えられる。(ア)の方法では二次元検出器を用いるためスペクトルの計測時間が短い一方で,広帯域なλ/4板と直線偏光子を用いる必要があり,また変調分光法と組み合わせられないために微小な信号の計測が困難である。(イ)の方法ではモノクロメーターを用いた検出光の波長選択に時間がかかる一方で,光弾性変調器を用いた偏光変調分光法が適用可能であるため,微小な信号も計測可能である。そのため,本研究では(イ)の方法を採用した装置を構築した。モノクロメーターで選択した波長に連動して光弾性変調器に印加する電圧を変更し,選択した波長で高精度な偏光計測ができるプログラムを開発した。構築した装置の動作確認のためにガラス基板上に作製した卍型金ナノ構造に直線偏光状態の白色光を入射し,透過光の円偏光度のスペクトルを計測したところ,構造のプラズモン共鳴波長帯において左手系の構造と右手系の構造で逆向きの楕円偏光が発生する状況を観測することに成功した。本装置と高NAの対物レンズを組み合わせ,さらにフーリエ面に円環マスクを置いて禁制光のみを透過させることで,キラル近接場光のスペクトルが可能になると期待される。
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