研究実績の概要 |
分子の有する振動エネルギーと真空場の光学エネルギーが量子相関を有することで振動ポラリトン状態という分子間にエネルギー相関を有する状態が創出される。特に結合エネルギーが大きいときには振動強結合状態と呼ばれる状態が生じ、近年では熱化学反応のダイナミクスを制御可能な指針として提案されている。振動強結合状態の電気化学系への適用とその原理探索を目的として、本年度は共振器中における水の振動強結合の観測と電解質水溶液のイオン伝導度変調に関して検討を行った。 分光計測および電気化学計測が適用可能なセルを開発し、電解質水溶液の厚さを数μm程度とした上で、角度依存分光計測を行ったところ、OH伸縮モードが共振器モードと強く結合することが明らかとなった。水の分子濃度に依存して結合強度を弱結合の領域から超強結合領域まで制御可能なことを明らかとした。さらには共振器の厚さを制御して、共振器モードを2,3,4次と制御したところ、超強結合状態下においては、共振器モードに依存して水の水素結合の状態がバルクとは異なることが示唆された(J. Phys. Chem. C, 2021)。 電気化学交流インピーダンス計測より、共振器中における電解質水溶液のイオン伝導度および誘電率に関して検討を行った。対照実験として、セル定数が同じでありながら、共振モードを有さないセルにおいてはイオン伝導度および誘電率はバルクの物性値と同じであった。一方で共振器中においては、誘電率の向上とイオン伝導度の向上が観測された。特にプロトン伝導度に関しては最大で1桁以上ものイオン伝導度の増大が明らかとなった。
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