研究実績の概要 |
光線力学的療法(PDT)は、光感受性物質が集積している箇所にレーザー光を照射することで一重項酸素を発生させ、がん細胞を死滅させる治療法である。一方で、大きな分子のがん細胞へ集積する特性(EPR効果)が知られており、分子サイズの違いが影響を与えることは非常に興味深い。そこで、分子サイズの精密な制御が可能な鎖状および環状ポリケトンの合成を試みた。環状ポリケトンにおいては、分子サイズに応じてアルカリ金属イオンとの相互作用が大きく異なることがわかった。鎖状もしくは環状化合物と構造的制御を行うことで、同じ分子量をもつ化合物においても、触媒反応への適用可能性や蛍光発光挙動を示した(Chem.Commun., 2022)。また、鎖状ヘキサケトンから小さな環状化合物であるcalix[3]pyrroleおよびcalix[3]furanの合成を達成している(J. Am. Chem. Soc., 2021)。calix[3]pyrrole類縁体は環構造の歪みに由来して酸性条件下では環拡大反応が進行することもわかっており、そのメカニズムをHPLCによる反応追跡、量子計算の結果に基づいて明らかにした(Chem. Eur. J., 2021)。難溶性π共役ポリイミン化合物を利用した第10族金属イオンの吸着率について検討を行った(Eur. J. Inorg. Chem., 2021)。ポリケトンの骨格にイミン部位を組み込むことで、ポリケトンの互変異性が抑制された化合物が得られ、金属キレート部位および蛍光発光部位を導入することで微量金属イオン検出の機能を創出することに成功した(Eur. J. Org. Chem., 2021)。以上のように、異なる分子サイズのケトンおよびイミン化合物を合成し、様々な機能を創出してきた。
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