研究課題/領域番号 |
21K14601
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
重光 孟 大阪大学, 工学研究科, 助教 (00791815)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | シクロデキストリン / 円偏光発光 / 分子センシング |
研究実績の概要 |
本研究では、環状分子(シクロデキストリン(CyD))を利用した『空間的に制限されたエキシマー』を生み出す独自の戦略によって、優れたCPL分子を創出する。CyD環上にピレン(Py)などの発光団を複数修飾することで、立体的に混み合った状況を生み出し、空間的に制限されたエキシマーを創り出す。このようなエキシマーは、優れたg値を示す傾向にある。また、本分子設計ではCPL異方性のみならずに『多数の色素に由来する優れた光吸収特性』『振動失活抑制による量子収率向上』『市販化合物からの簡便な合成』が可能であり、CPL有機分子が抱えている課題を解決しうるポテンシャルを秘めている。 2021年度は、実際にピレン修飾シクロデキストリン(Pyrene-Cyclodextrin: PCD)を合成した結果、非常に優れた異方性因子を有する高輝度CPL (glum = 1.2 × 10-2)を発することを明らかにした。それらは良好な量子収率(Φ = 0.45)を示した。また、多数のピレニル基が存在するために優れた光吸収特性を示し、CPL色素において重要な指標であるCPL輝度(BCPL)は340 M-1cm-1に達した。これは一般的なヘリセンやシクロファンなどのキラル化合物などの低分子CPL発光分子の100倍程度であり、有機分子でトップクラスの値であった。 さらに、CyD環上のPy基周辺の空間の重要性を示すために、リンカー長を伸長した分子を合成して光物性を評価した。その結果、アルキル鎖の炭素の増加に伴ってCPL異方性が低下することが明らかとなった。これらの結果から、立体的に制限された空間が良好なCPL特性発現に重要なファクターであることが実験的に示された。本研究は、優れたCPL特性を示す有機分子に新たな設計にもたらすものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、立体的に制限された空間で形成されるエキシマーを利用する新たな分子設計戦略によって優れたCPL特性を有する円偏光発光分子の創出に成功している。初めに、典型的なエキシマー色素であるピレン分子によって本研究のコンセプトを実証した。それを、ペリレンやトリフェニレンなどの多環式芳香族化合物に展開し、様々な発光性色素をCPL色素に変換できることも実証した。特にトリフェニレンは、極めてエキシマー形成しにくくCPL色素としての報告例はなかったが、本手法によってCPL色素として機能することが明らかとなった。さらに、シクロデキストリンの分子包接能を生かして、有機分子によるCPLセンシングにも成功している。また、その過程で一見、光物性には無関係に思えるシクロデキストリンの柔軟性がCPL特性に大きく影響を及ぼすことも見出しており、研究は順調に進捗している。
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今後の研究の推進方策 |
CPLには回転方向の情報が光に含まれるために、通常の蛍光よりも多くの情報量を有している。これをバイオセンシングやイメージングに展開することでより精密な生体情報が得られることが期待される。しかしながら、有機CPL分子による分子認識でCPL特性を変化させた報告例は少なく、開拓の余地が十分にある。 今後、これまでに開発したPCD分子のCyD環の内部空間を生かし、ゲスト分子包接によるCPLセンシングに取り組んでいく。始めに、シクロデキストリン内部に強く結合することが知られているアダマンタンカルボン酸などの分子から検討を行う。それらの包接能を吸収(UV-vis)、蛍光(PL)、円二色性(CD)および核磁気共鳴スペクトルによって検討する。また、CPLスペクトルを分子CPLセンシングの可能性を追求する。
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