昨年度までの研究では、π接合可能なトリアザトリアンギュレン構造をアンカーユニットに用い、導電部となる分子ワイヤを垂直連結したピラー状分子ワイヤを開発した。これら誘導体は良好な単分子電気伝導度を示し、ワイヤと接合部の分子軌道が直交した系においても電気伝導度特性に対して不利に働かないことを明らかにした。 本年度では、昨年度に得られた知見をもとに、高い電気伝導度を示す分子ワイヤ開発を目指し、熱的なエネルギー損失の低減が可能な縮環構造を分子ワイヤの単位ユニットに適用し、各ユニット間を直交させることで有効共役長が一定になる分子構造を設計した。電荷が飛び移る各ユニットのエネルギー準位を規定化することによって、低エネルギー障壁を示す長距離電荷輸送システムが開発可能になると期待される。 具体的にはナフトチアジアゾールやベンゾジチオフェンを有する再配列エネルギーの低い縮合多環π共役ユニットを開発し、これらユニット間が互いに立体反発で直交するようにアルキル基を導入したオリゴマー構造を設計ならびに合成した。設計したオリゴマー構造は分子軌道計算から分子軌道がユニット内に局在することが示唆された。加えて、ユニット数を増加したオリゴマー構造においても吸収極大波長に変化が見られなかったことから、ユニット間の共役は破断し、各縮環構造ユニット内に有効共役長が制限されることが示唆された。 縮環オリゴマー構造の単分子電気伝導度測定を行ったところ、ユニット数の増加に伴って単分子電気伝導度の減衰がほとんど確認されないことに加え、同じ分子長を有する非縮環型構造やオリゴチオフェン型分子ワイヤ構造と比較しても高い電気伝導度を示すことが判明した。これらの結果から分子ワイヤ内の縮環π共役ユニット間の構造を直交させることは、優れた電荷輸送特性を示す分子ワイヤを開発するうえでの有用な分子設計指針になると考えられる。
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