研究実績の概要 |
本研究課題では、光応答性分子結晶のフォトメカニカル応答に着目し、分子一つ一つの微視的な変化と巨視的な物性変化がどのように関連しているかを明らかにすることを目的としている。本年度は、結晶中において分子間光重合反応が進行する2,5-ジスチリルピラジン(DSP)の単結晶におけるフォトメカニカル応答およびその光反応ダイナミクスについて検討した。DSPの薄膜単結晶に365 nmの紫外光を照射すると、結晶の幅が太くなるフォトメカニカル応答を示すことがわかった。紫外光照射時間に対する結晶の幅の変化を追跡したところ、紫外光照射直後はあまり変化しない誘導期が存在し、その変化は紫外光照射時間に対してシグモイド曲線を描くことがわかった。すなわち、DSPの単結晶中における光反応は、周囲の分子の影響を受ける「協同的光反応過程」が存在することが示唆された。さらに、DSP薄膜単結晶の光反応を色、蛍光、複屈折の変化によって追跡したところ、結晶の端から中央に向かって光反応が進行していくことを見出した。結晶を意図的に切断した場合には切断面から光反応が進行することから、この特異な光反応は、上述した協同的光反応過程の存在に加えて、結晶表面と結晶内部の光反応性が大きく異なることに起因していることが示唆された(Angew. Chem. Int. Ed., e202212290 (7 pages) (2022).)また、これまでに報告されている有機分子結晶における協同的光反応についてまとめ、本研究課題で確立した協同的光反応速度論の有用性について執筆した総説論文を報告した(Chem. Eur. J, 29, e202203291 (14 pages) (2023).)
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