研究課題/領域番号 |
21K14604
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
金友 拓哉 東京理科大学, 理学部第一部化学科, 助教 (70811876)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 希土類錯体 / 有機ラジカル / スピンクロスオーバー |
研究実績の概要 |
本研究では、希土類(4fスピン)および第1遷移金属(3dスピン)イオンと有機ラジカル(2pスピン)を使用した新奇4f-3d-2pヘテロスピン系の開発を目指す。分子性磁性体はスピン源の自由な選択や構造の多様性などが特徴であり、本スピン系は1つの分子に化学的性質が異なる3つのスピン系が共存している。本研究では、各スピン種を単に1つの分子に内包するのではなく、可逆的な磁気構造の変化を示す新奇機能性材料への応用を考慮した分子設計の下、4f-3d-2pヘテロスピン系の構築を目指す。本目的の達成に向けて、テルピリジンの5,5”位にニトロキシド(NO)基を導入した5tpybNO(2pスピン)に着目して、3d金属および4f金属との錯形成を試みる。本研究では、5tpybNOと3d金属イオンから成る錯体を金属配位子として合成した後、4f金属イオンと錯形成を行う。これまでZn(II)、Cu(II)、Co(II)イオンとの3d-2p系錯体の合成に成功しており、本研究では新たにMn(II)イオンとの錯形成に成功した。これまで同様、テルピリジン部位が選択的に配位する構造であった。また、ML比1/2のCo(II)錯体では、中心金属の可逆的なスピン状態の変化(SCO)に加えて、末端NO基の分子間接触を介した二量体形成によるスピン平衡が発現し得る。本研究では[Co(5tpybNO)2]2+錯体の結晶化条件を詳細に検討することで、分子間の接触サイトを制御することに成功した。最後に、主目的である4f-3d-2p系においては、Zn-5tpybNO金属配位子とDyイオン(4f)の錯形成から、NO部位によるDyイオンへの配位は見られなかったものの、共結晶が得られた。今後、結晶化条件や4f金属イオン周りの対アニオンの変更から目的の錯体の合成を試みる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、希土類(4fスピン)および第1遷移金属(3dスピン)イオンと有機ラジカル(2pスピン)を使用した新奇4f-3d-2pヘテロスピン系磁性体の開発を目指している。開発の流れとして、ラジカル部位を持つテルピリジン配位子と3d金属イオンから成る錯体(金属配位子)を合成した後、4f金属イオンとの錯形成を行う。これまで、3d金属イオンには、Zn(II)とCu(II)イオンと錯形成を行っており、ML比1/1の錯形成に成功している。本年度では、2価のMnイオンとの錯形成に成功し、構造および磁性について調査した。また、SCOを示し得るCo(II)イオンによるML比1/2の錯体では、末端のラジカル部位が分子間で接近した構造を示すことを過去に報告している。この分子間接触は、一定の距離まで近づくとラジカル部位間での化学結合形成により非磁性になる。そのため、この分子間接触を温度で制御できれば、末端ラジカル部位によるスピン平衡を可能にする。本研究では、昨年度に引き続き、Coイオンとラジカル部位による2種のスピン平衡が協奏的に発現する系を目指して、合成条件を検討した。残念ながら温度制御可能な結晶構造は得られていないが、合成条件により分子間接触を示す部位の選択を可能にした。これまで得られた3d-2p系金属配位子を利用して、4f金属イオンとの錯形成を試みた。実験を進めると、テルピリジン部位が元々配位していた3d金属を手放して4f金属へ新たに配位する金属置換が見られた。これは4fおよび3d金属イオンと配位子のHSAB則や立体障害に依存していることが示唆されている。現在、ZnとDyイオンの組み合わせでの錯形成は上記の置換が抑制されており、3d-2p系配位子と4fイオンの共結晶が得られている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度では、常磁性配位子5tpybNOのテルピリジン部位での配位をCu(II)とZn(II)に加えてMn(II)でも確認した。ラジカル部位(ニトロキシド)と金属イオンがピリジン部位を介して磁気的相互作用を示す。今後は、理論計算で実験データを補いつつ、3d-2p間磁気的相互作用の金属依存性についてまとめる。SCO活性なCoイオンによる錯体では、結晶化条件によって分子間接触の選択性が見られた。今後はこの知見を活かして、ラジカル部位によるスピン平衡と中心金属のスピン平衡(SCO)が協奏的に発現する系の開発も進める。最後に、本研究の主目的である4f-3d-2p系の開発については、5tpybNO配位子と3d金属イオンから成る金属配位子と4f金属錯体(原料)の共結晶が得られている。テルピリジン部位での金属イオンの置換は想定外ではあったが、ZnとDyイオンの組み合わせでは抑制されており、今後、結晶化条件や4f金属イオン周りの対アニオンの変更から目的の錯体の合成を試みる。
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