研究実績の概要 |
箱型分子であるキュバンが完全にフッ素化されたペルフルオロキュバンは,理論計算により「内部に電子を閉じこめる」と予測されているが,その合成は達成さ れていなかった。申請者は2019年度~2020年度の科研費(若手研究)課題としてペルフルオロキュバンの合成に取り組み,その単離に成功した。本研究は 「ペルフルオロキュバン内部の電子は,分子内/分子間で移動しうるのだろうか?」との問いが発端であり,特に分子内電子移動に着目する。具体的には,ペルフルオロキュバン多量体を合成して電子を閉じこめ,この電子が分子全体に非局在化し安定化されることを実証することを目標とした。 まず,対象のペルフルオロキュバン単量体の電子受容性について精査し,理論計算による予測の通りフッ素置換の効果によって低準位のLUMO を持つことを明らかにした。また「電子がペルフルオロキュバンの箱の中に閉じ込められた状態」を低温マトリックス単離ESR法を用いて観測できた。この成果は、本研究の最終目的である「箱の中の電子の分子内移動を確かめる」に対して重要な前提を証明したこととなり、本研究の礎になるものである。 ここまでの成果をまとめた論文はScience誌に掲載された(Science, 2022, 377, 756.)。 研究実施計画においてはペルフルオロキュバン多量体を合成する予定であったが,合成が難航した。そのため,ペルフルオロキュバン同士を直接ではなく架橋構造を介して連結することとした。適切な架橋構造を理論計算によって探索し,その合成法について検討した。
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