異種の分子集合体がヘテロ接合したブロック構造体においては、単一成分系からなる分子集合体には見られない機能の発現が期待される。本研究では、結晶を一つの分子集合体のコンパートメントと見なし、異種結晶を階層的に集積化させることで、シームレスなヘテロ接合界面を有するブロック共結晶の構築を目指した。具体的な分子系として、温度や光といった外部刺激に応答してスピン状態をスイッチング可能なスピンクロスオーバー錯体に着目し、配位子としては水素結合性官能基であるカルボキシ基を置換したビスピラゾリルピリジン誘導体(cdpp)を用いた。 2022年度は、前年度までに作製方法を確立したコアシェル型ブロック共結晶の磁気物性について検討した。鉄錯体結晶をコア、コバルトもしくは亜鉛錯体結晶をシェルとするコアシェル型ブロック共結晶について、MPMSを用いて温度依存磁化率を測定した。その結果、鉄錯体結晶そのもののスピンクロスオーバー現象におけるスピン転移温度よりも、コアシェル型ブロック共結晶の方が低い温度でスピン転移を示すことを見いだした。この挙動はDSC測定からも観測された。単結晶X線構造解析による詳細な検討の結果、コア、シェル間の結晶格子のミスマッチが大きいほど、コアの鉄錯体のスピン転移温度が低くなる傾向が示された。 研究期間全体を通じ、異種金属錯体結晶がヘテロ接合したコアシェル型ブロック共結晶の作製手法を確立した。得られたブロック共結晶においては、シードの結晶構造がシェルの集合構造に反映され、シェルを構成する分子単独では形成しない集合構造をも誘起可能であることを見いだした。また、ブロック共結晶においては、コアである鉄錯体結晶のスピン転移温度がシェルによって変調されることを明らかにした。以上、本研究を通じて、結晶をコンパートメントとするブロック構造体の構築と機能に関して当初の想定よりも多くの成果を得た。
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