研究課題/領域番号 |
21K14611
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
加藤 研一 京都大学, 工学研究科, 助教 (10879406)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | プロペラン / 空間 / 不斉 / 配座異性体 / 周辺修飾法 / 多孔性 |
研究実績の概要 |
本研究では、通常の平面π共役分子とは異なり立体構造を有するπ縮環プロペラン骨格に着目し、π共役系の立体性や骨格周囲に生じる空間の活用に取り組んでいる。 ナフタレンの1つをビフェニルに置き換えた[4.3.3]プロペランについては、2か所のみの選択的な修飾によってアザクリセン環へπ拡張したキラル分子の合成を行った。ピリジン型の窒素に起因した酸添加への応答も見られ、興味深いことに、消光ではなく長波長側への新しい吸収・発光帯の出現が見られた。円偏光二色性(CD)および円偏光発光(CPL)の強度は中程度であったほか、理論計算による予測CDスペクトルとの比較の結果、骨格中心の炭素-炭素単結合のねじれに起因する2つの配座の平衡状態にあることも分かった。 このねじれは類似骨格であるトリプチセンには見られないπ縮環プロペラン骨格の特徴であることから、理論計算によって各ねじれ角配座の安定性を見積もった。π縮環[3.3.3]プロペランはねじれのない単一構造を安定とする一方で、[4.4.4]体は2つのねじれ配座が通常条件の範囲では相互変換しないことが示唆された。[4.3.3]体、[4.4.3]体がそれらの中間の状態になること、昨年度からπ縮環プロペラン誘導体が結晶性固体を与えにくい傾向を示していたことから、結晶性化合物ではなくソフトマテリアル等への展開が有望と考えられた。実際にπ縮環[3.3.3]、[4.3.3]プロペランに対してホルミル体の誘導化を進めることで、クロロホルムに可溶な直鎖重合体および不溶性の分岐高分子固体を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
π縮環プロペランを構成単位とした分岐高分子固体および水素結合性分子固体の合成と小分子吸着挙動を報告する研究について、2報の学術論文にまとめることができた。また、光学活性な[4.3.3]プロペラン誘導体についても論文投稿まで研究が進展している。 本研究ではπ縮環プロペラン骨格がもつ空間の活用として主に3つの方向性をあげていたが、前述の通り既に2つの内容について成果が得られた。特定の環状多量体の特性を詳細に調査する段階には至っていないものの、求電子置換反応等を用いてπ縮環プロペランの周辺部を修飾する手法に関する種々の知見を蓄積することができた。また、研究当初は注目していなかったが、骨格中心の炭素-炭素単結合のねじれに起因する[4.3.3]体および[4.4.3]体の柔軟性が重要な特徴であることを発見できた。本特徴は、類似骨格としてしばしば比較されるトリプチセンには見られないものであり、π縮環プロペラン独自の材料展開にとって大きな価値をもつと考えられる。 以上、当初の方向性に関する一定の成果、π縮環プロペラン骨格独自の特性、吸着特性等を向上するための研究に着手していることから、当初の計画よりも早く研究が進展していると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
ねじれ配座間の変換運動については、[3.3.3]、[4.3.3]、[4.4.3]、[4.4.4]のπ縮環プロペラン骨格4つに対して理論計算と実験の両面から詳細に調査を行う。安定な不斉構造が予測されている[4.4.4]体については光学分割を行って、CD・CPL測定に基づくキラル光学特性の評価も行う。柔軟性と相互変換が想定される[4.3.3]体、[4.4.3]体については不斉反転の活性化障壁を求めるとともに、キラル添加剤や環境に応答したキラル光学応答を示さないか調べる。 本研究で得られたこれまでの化合物において、π縮環プロペラン骨格が示す小分子吸着特性は理論的な最大容量を下回っていた。その理由の1つとして設計した空孔が大きく相互侵入等が頻繁に起こることが考えられるため、連結部分を1,3,5-三置換ベンゼンに置き換えた高分子固体を合成した。[3.3.3]、[4.3.3]のπ縮環プロペランを構成単位とした重合体とともに、装置故障で実施できていなかった小分子吸着能などの物性評価を進めることで、分子構造や用いた重合・縮合法と特性の相関に関する情報を取得し、性能の向上を図る。他の結晶性材料と異なり高分子材料との相溶性が高い点が長所として想定されるため、溶解性や柔軟性と多孔性の両立に留意して環状多量体や高分子の合成・改良と生成物評価を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
日本化学会 第103春季年会への旅費として年度末まで執行しなかった予算のうち若干額が未執行となった。次年度使用額は令和5年度分の助成金と合わせて試薬購入費として使用する予定である。
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