研究課題/領域番号 |
21K14631
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研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
山下 賢二 静岡県立大学, 薬学部, 助教 (50851911)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ハロ環化 / 有機分子触媒 / 不斉反応 / ホスフィンオキシド / ブレンステッド塩基 / ルイス塩基 / 軸不斉 / 超分子 |
研究実績の概要 |
一般にホスフィンオキシドは塩基性が低く、ブレンステッド塩基触媒としての機能は見過ごされてきた。それに対して、2つのホスホリル基が適切な空間配置に存在するBINAPジオキシドは、プロトンに対して高い親和性を示し、ブレンステッド酸と混合することでプロトン架橋型錯体(POHOP)を形成することがわかった。特に、BINAPジオキシドと臭化水素から調製したPOHOPが、先行研究で開発した不斉ブロモ環化反応に対して優れた触媒活性を示すことを見出し、詳細な機構解析の結果、POHOPは反応系中でBINAPジオキシドへと再変換され、2つのホスホリル基のうち、一方がブレンステッド塩基として基質を活性化し、他方がルイス塩基としてブロモ化剤を活性化していることを明らかにした。さらに、本協奏的触媒作用を利用して、ブロモ環化によるラセミ体アリルアミドのパラレル速度論的光学分割を達成した。 また、BINAPジオキシドがアミドを活性化できることを踏まえて、プロパルギルアミド類のハロ環化による軸不斉構築法の開発を検討した。初めにブロモ環化反応を検討したところ、目的の軸不斉化合物が得られたものの室温下でラセミ化することがわかったため、回転障壁エネルギーを大きくする目的でヨード環化反応を検討した。その結果、中程度のアトロプ選択性で目的生成物が得られることを見出した。現在は更なるアトロプ選択性の向上を目指して、反応条件および触媒構造の最適化を行っている。 POHOPを触媒前駆体とする上記の不斉ハロ環化と並行して、POHOPをブレンステッド酸触媒として用いる反応も検討した。今年度は、エノンに対するインドールのフリーデルクラフツアルキル化をモデル反応として触媒機能の評価を行った。その結果、POHOPがブレンステッド酸として機能することを確認し、さらにPOHOPとウレアから成る超分子を用いると立体選択性の改善がみられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、BINAPジオキシドと臭化水素から調製したPOHOPが、不斉ブロモ環化反応に対して優れた反応促進効果を示したことから、その反応メカニズムについて詳細に調査した。その結果、系中で生じるBINAPジオキシドが真の触媒活性種であることを明らかにした。BINAPジオキシドは、当初想定していたようにブレンステッド塩基として基質を活性化することに加えて、ルイス塩基としてブロモ化剤も同時に活性化していることがわかった。本協奏的触媒作用を利用することで、ハロ環化による初めてのパラレル速度論的光学分割にも成功し、これらの研究成果を論文として報告することができた。 今回見出したBINAPジオキシドの協奏的触媒作用は当初予期していたものとは異なるが、期待を凌駕する新規触媒作用であった。この知見をもとに、申請書の計画に記載した軸不斉構築型のハロ環化反応を検討したところ、目的の軸不斉化合物が良好な収率で得られることを見出した。特にヨード環化反応においては、中程度ではあるがアトロプ選択性が発現することを確認している。 また、POHOPをブレンステッド酸触媒として利用する研究に関しては、期待した通りPOHOPがプロトン酸として機能することを見出した。しかし、その酸性度が予想より低かったためか、モデル反応は効率良く進行しなかった。そこで申請書の計画に従って、POHOPの対アニオンをウレア類で捕捉することでPOHOPを超分子化する検討を開始した。NMR実験から、POHOPとウレア類を混合することで目的の超分子が形成することが示唆されたため、本超分子を用いてモデル反応を再度検討した。その結果、添加するウレアによって反応効率や、生成物の立体選択性が変化することを見出し、本研究コンセプトの妥当性を確認できた。以上のように重要な知見が得られており、研究は比較的順調に進んでいると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
今回見出したキラルビスホスフィンオキシドの協奏的触媒作用を応用して、プロパルギルアミド類のヨード環化による軸不斉構築法を確立する。すでに中程度のアトロプ選択性が発現することを確認しているため、今後は更なる選択性向上を目指して触媒構造の最適化を行う。具体的には、想定反応遷移状態に基づいて触媒のリン上置換基の検討やビナフチル骨格の修飾を主に検討する予定である。プロパルギルアミドのヨード環化により生成する化合物は、芳香環ー非芳香環から成る特異な軸不斉化合物であり、このような軸不斉化合物はこれまで殆ど合成例がない。そこで基質一般性についても詳細に調べ、軸不斉分子のケミカルスペースを拡大することで創薬研究の発展に貢献することを目指す。 また、これまでの研究でホスフィンオキシドがアミドを活性化できることが明らかとなったことから、より酸性度の高いフェノールやカルボン酸も水素結合を介して活性化できると考えられる。そこで、フェノールの活性化を伴うハロ環化反応やハロラクトン化反応なども検討し、キラルビスホスフィンオキシドの協奏的触媒作用の更なる応用・発展を目指す。 POHOPの超分子化に関する研究では、添加するウレアが触媒活性に影響を与えることがわかったが、その構造活性相関が不明瞭であることが課題である。そこで、種々のウレアから超分子化POHOPを調製し、ウレアの電子的および立体的要因が超分子の触媒活性に与える影響を系統的に調べる。また、超分子錯体のX線結晶構造解析を行い、超分子が構築する不斉空間に関する知見を得る。これらの基礎的知見を十分に集めた後に、これまで達成されてこなかった不斉触媒反応に挑む。現状では、申請書に記載した高次選択的Nazarov環化を検討する予定でいるが、得られた知見によっては標的とする反応を変更することも計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、論文投稿のための反応機構解析を主に行った。そのため、購入を計画していたマグネチックスターラー付アルミブロック低温槽、アルミバスセット用アルミビーズ、およびHPLC用キラルカラムは次年度に購入することにした。またそれに関連して、新規触媒や基質の合成を行う機会が少なくなってしまったため、試薬や溶媒などが想定よりも必要とならなかった。次年度は、触媒構造の最適化や基質一般性の拡大を計画しており、種々の触媒や基質を合成する必要がある。従って、その合成に必要な試薬、有機溶媒、精製用シリカゲル、およびガラス器具の購入機会が多くなるため、それらの購入費に計上する予定である。 また研究成果が蓄積しているため、次年度は学会で発表する機会が増える。そのため、学会参加費や旅費が今年度よりも多く必要となると予想され、それらの経費にも計上する予定である。
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