研究実績の概要 |
本研究では、アクリル酸類を還元的な条件に付することにより、一時的に酸性水素の影響をなくし、カルボン酸の還元的な炭素ー炭素結合生成反応の開発を目指した。 研究期間において、銅触媒とヒドロシランをアクリル酸に対して作用させることで、カルボン酸の直截的な不斉α位官能基化に成功している。具体的には還元的アルドール反応とMannich型反応を論文として報告している。これらの研究を通して、反応基質の立体障害が立体選択性に大きく影響を与えることを明らかにした。とくに反応基質の立体障害を調整しやすいMannich型反応では、形成する可能性のある4つの立体異性体の中から、1つの立体異性体のみをほぼ選択的に合成できた(dr >20:1, >90% ee)。このように本研究課題では立体選択的なカルボン酸のα位官能基化の開発を実現した。 また上記の研究の過程においてアクリル酸をケテン等価体とする新たな触媒的反応も発見した。例えばアクリル酸に対して、適切な反応基質を作用させることで多置換オキシインドールを高収率で得られる。この反応は幅広い基質に適用できることもわかっている。詳細な反応機構に関しては検討中である。 最後に、二種異核金属触媒によるヒドロアリル化の検討も行った。しかし、副反応である反応基質の還元を抑えることができず、ヒドロアリル化の実現はできなかった。一方でアクリル酸のヒドロアリル化の予備検討をしていた際に、非対称なアリル求電子剤を用いた高位置選択的なアリル位アルキル化を発見した。反応条件を最適化することにより、高収率かつ高位置・立体選択的に目的の反応が進行することを見出している。詳細な検討は今後実施する。
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