研究実績の概要 |
本研究では、NHC金属錯体を基盤とした新たな結晶性分子ローターの開発とその新規な光機能開拓を目標とし、研究を進めた。膨大な化合物ライブラリーを持つNHC錯体の特徴を最大に生かし、種々固体発光を示す新規な結晶性分子ローターの開発に成功した。まず、初期型として、IPrと呼ばれるNHC配位子をCuおよびAuに配位させ、その金属付近に回転部位を導入したNHC結晶性分子ローターを開発した (Jin, M. et al., J. Am. Chem. Soc. 2021, 143, 1144.) 。このローターでは、NHC 金属錯体が持つ立体・電子的効果により分子回転が精密に制御される。また、その回転運動が固体発光性を制御する重要な因子であることが示唆された。 また、回転部位およびカウンターアニオンの種類を変え、回転部位周辺の立体環境を変化させたところ、それに伴い固体中の回転運動性やその発光性の大きな変化を見出すことができた。さらに、NHC-IPr-Cu 錯体に対し、二座配位性をもつ複数の回転部位を導入することで、結晶中で回転部位同士がギア回転運動を示し、その配位環境の違いによって固体発光性を大幅に変調できる新規な性質を見出すことにも成功した。さらには、本研究を行う過程で、NHC-IPr-Cu 錯体の結晶化条件を変えることで、予想しなかったラセン型配位高分子を結晶内でその構造を精密に制御することに成功し、その構造の微細な変化によって固体の発光性も変調できることを見出し、学術論文として発表した(Jin, M. et al., Inorg. Chem. 2022, 61, 3)。
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