研究実績の概要 |
本研究では『15 族、16 族元素と遷移金属間に多重結合を有する ポリオキソメタレート(POM)の合成とその電子的性質解明および超分子結晶体を反応場とした高 効率な環境調和型固体 POM触媒の開発』を目的に研究を行うことで、これまでとは異なる形式の複合アニオン型 POM 錯体の創製を目指した。 1年目では「ポリオキソバナテートの化学反応による直接官能基変換法の確立」を目指して研究を行なった。2年目では「モリブデートの化学反応による直接官能基変換法の確立」を行った。 本研究では、M=O結合を他の典型 元素 (O → S, Se, N) に置き換えたPOMの合成と性質解明を行った。一般的に高周期典型元素-遷移金属間の多重結合に対応するHOMO準位は高く、LUMO準位は低 くなることが知られているので、特有の多電子酸化還元挙動を示す。これまでに、バナジウムおよびモリブデンを中心金属としたデカバナデート(V10)、ドデカバナデート(V12)、トリデカバナデートユニット (V13)、ヘキサモリブデート(Mo6)等を合成し、これらに対し硫化剤およびイミド化剤を加えることでM=O結合部位をM=SまたはM=N結合へと変換する試みを行なった。その結果、粉末X線、SEM- EDX測定、XPS分析、IR測定などにより、メタレートにヘテロ原子が組み込まれていることが明らかになった。さらに、官能基変換したヘテロポリ酸の性質解明や光触媒への展開を行い、光反応の高効率化を目指した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
3年目、「引き続きポリオキソバナテートの化学反応による直接官能基変換法の確立」を目指して研究を行なった。 ポリオキソメタレート(以下POM)は、化学式が [MxOy]n-(M = W, Mo, V, Ti, Nb, Al など)で表される分子を指す呼称で、4族から7族の遷移金属イオンの 周りに オキソアニオンが配位した [MO6]を基本骨格とした多面体がオキソ架橋により縮合して形成されるアニオン性多核錯体である。本研究では、中心金属をバナジウ ムおよびモリブデンとした末端酸素部位(M=O)および架橋酸素部位(M-O-M)への官能基変換反応を行った。1)ヘキサモリブデート(Mo6)に対しDCC存在下第一 級アミンを加えることで、Mo6クラスターにイミドが1つ、および2つ(cis, trans体)を導入しその電子的特性を理論計算を用いて明らかにした。また、Mo6クラスターに対してイミド部位が1つ、2つと導入されることで錯体の吸収がレッドシフトすることを紫外可視吸収スペクトルから明らかにした。現在は、イミド 化したMo6クラスターを用いた光触媒の検討をおこなっている。2)非対称なサリチルアルコールを用いることで、新規なバナジウム4核クラスターを合成する ことに成功した。紫外吸収スペクトルおよび理論計算からLMCT遷移であることを見出し、サリチルアルコールに電子供与基や電子吸引基を導入することでLMCT遷 移をある程度コントロールすることに成功した。現在は、このヘテロポリ酸を利用した光触媒の検討をおこなっており、一部高効率光触媒反応を示すことを見出した。
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