研究課題/領域番号 |
21K14640
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中間 貴寛 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 特任助教 (30884192)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | タンパクーリガンド相互作用 / 弱い相互作用 / タンパク質 / 糖鎖 / 構造解析 / 空間捕捉 / 自己組織化 |
研究実績の概要 |
本研究では、生命現象で重要なタンパク質ーリガンド間の弱い相互作用を解明するために、超分子球状錯体への空間捕捉を用いた新たな構造解析手法を開発する。自己組織化により組み上がる巨大中空錯体ケージにタンパクとリガンドを共包接し、空間的に閉じ込めることで弱い相互作用を強制的に発現させる。これにより従来は解析不能であったタンパク質ーリガンド相互作用を構造的に明らかにする手段の創出を目指す。 今年度は、昨年度に開発した超分子錯体ケージ内部へタンパク質とリガンドを共包接する手法を活用し、実際にタンパク質ーリガンド間に相互作用が発現することを評価した。有機二座配位子にリガンドとなる糖鎖、タンパク質を接合し、Pd(II)イオンと配位子の自己組織化を行うことで、タンパク質と糖鎖が内包された錯体ケージを構築した。錯体への共包接をDOSY NMRで検証するとともに、錯体内部でのタンパク質とリガンドの近接をFRET法により実証した。これにより、中空錯体ケージへタンパク質とリガンドを系統的に共包接する方法論を確立することができた。さらに、包接したタンパク質と糖鎖の間の相互作用について評価を行った。糖鎖と共包接したリゾチームの酵素活性を測定すると、錯体内部での糖鎖との相互作用により活性の低下が観測された。このことから、期待通り錯体内で近接効果により、弱い相互作用を誘起することができた。今後は、近接効果によって誘起されたリゾチームー糖鎖相互作用をNMRを駆使して詳細に解析していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、タンパク質ーリガンド間の弱い相互作用の解析に向けて、中空錯体ケージへの共包接(閉じ込め)によってタンパク質とリガンドの間に弱い相互作用が発現し観測できることを実証した。昨年度までに開発した共包接手法を活用して、タンパク質とリガンドを中空錯体へ閉じ込め、両者の近接、相互作用の発現を評価した。FRET (蛍光共鳴エネルギー移動)を用いた分子間の距離の評価では、タンパク質とリガンドが錯体内で相互作用が誘起されるのに十分なほど近接していることが明らかになった。さらに、リゾチームと糖鎖を共包接し、リゾチームの酵素活性を評価することで、タンパク質ー糖鎖間の弱い相互作用が近接効果によって誘起されていることが明らかになった。このように、当初の研究計画通りに概ね研究が進展しており、最終年度には目的とする弱い相互作用の構造的な解析に移るための体制が整ったと言える。来年度は、リゾチームー糖鎖のNMR(核磁気共鳴)構造解析に着手する予定であり、共同研究者であるNMRの専門家と進める計画が綿密に立てられている。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である次年度は、これまでに実証した中空錯体内への包接によるタンパク質ーリガンド相互作用の誘起を活用して、実際に誘起された弱い相互作用を構造的に解析することを目指す。具体的にはこれまでに見出した錯体内でのリゾチームー糖鎖間の相互作用をNMRで解析する。溶液中で遊離の状態では検出されない弱い相互作用を錯体の閉じた空間の中で発現させ、NMRで構造的に解析する。NMRで解析可能な安定同位体標識したリゾチームを調製し、糖鎖とともに錯体へ包接して解析する。多次元NMRやNOESYなどのNMR手法を組み合わせることで、リゾチームと糖鎖の複合体構造を三次元構造として明らかにする。さらに、糖鎖と相互作用するタンパク質群であるレクチンに着目し、レクチンと糖鎖の弱い相互作用の解析を目指す。特に、コロナウイルスなどの病理に関連 するレクチンについて、糖鎖との相互作用を構造的に明らかにすることを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
最終年度では、共同研究先でタンパク質NMR構造解析を行う。そのために必要なタンパク質の調製、試薬、出張費にこれまでよりも多くの予算を必要とすることが見込まれた。そのため、当初の計画を変えて最終年度に多くの予算を配分することにした。また、次年度はこれまでの成果を発表するために国際学会を含む学会への参加を検討している。その旅費、参加費の費用を賄うためにも助成金を繰越すことにした。
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