研究課題/領域番号 |
21K14642
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
Jung Jieun 名古屋大学, 理学研究科, 講師 (60801008)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | Carbon dioxide / Photoreduction / Photocatalyst / Molybdenum complex / Laser flash photolysis |
研究実績の概要 |
新しいPNNP型四座配位子を有するモリブデン(Mo)錯体を開発し、これらが二酸化炭素の光還元反応を触媒することを見出した。嵩高い置換基をもつMo錯体(Mes-MoPCY2)を用いた場合、昨年開発したMo錯体(MoPCY2)に比べて、N、N-ジメチルアセトアミドアセトニトリル(DMA)溶媒中での二酸化炭素の光還元における触媒性能を向上することに成功した。続いてDMA溶媒に体積比0.5%の水を加えた条件で二酸化炭素の光還元反応を行った結果、その触媒活性に大きな向上が見られ、ギ酸に関する触媒回転数(TON)は440に達し非含水条件に比べておよそ2倍の二酸化炭素還元量となった。今回の系では水がプロトンの供与体としてはたらきTONが向上したと考えられる。さらに、水の存在下において触媒の耐久性が高くなることが見出された。 Mo錯体を用いた二酸化炭素の光還元によって生成するギ酸が二酸化炭素由来であることを確かめるために同位体標識した二酸化炭素を用いた反応を検証し、生成しているギ酸は二酸化炭素由来であることが確認された。 続いて、Mo錯体が均一系触媒としてはたらいていることを確認するために反応溶液に水銀Hg(0)を加えた非水条件下で二酸化炭素の光還元反応を行った。Hg(0)は不均一系触媒の粒子に吸着することでその活性を失わせるため、水銀の存在下でも触媒が変わらずに活性を示せば、その触媒が均一系触媒としてはたらくことが示される。24時間後のギ酸に関するTONはHg(0)存在下で41であり、Hg(0)非存在下で43であるなど、Hg(0)の存在下におけるMes-MoPCY2の触媒活性はHg(0)非存在下のそれと同程度であった。この結果からMo錯体は均一系の光触媒としてはたらいていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
R3年度には計画した通り、新しいMo錯体(Mes-MoPCY2)を合成のうえ、その光照射下における二酸化炭素の還元能や構造的安定性、もしくは触媒電流を測定・評価した。Moは卑金属であり貴金属に比べてより安価で地表上により豊富に存在するため、単核の二酸化炭素の光還元触媒としてはたらくMo錯体の開発は学術的にも技術的にも大いに意義がある。Mes-MoPCY2を用いる二酸化炭素の光還元反応ではギ酸生成におけるTONは440に達し、貴金属を用いない単核の二酸化炭素の還元触媒としては世界最高の値を達成した。また、二酸化炭素の還元体全体におけるギ酸選択性は99%であった。光の利用効率を表す反応量子効率を測定した結果、ギ酸生成における量子効率は0.24%と求まり、貴金属を用いない二酸化炭素の光還元触媒では比較的高い値を示した。 電気化学的な物性を調査する目的で、サイクリックボルタンメトリー(CV)および微分パルスボルタンメトリー(DPV)を用いる酸化還元電位測定を行なった。2つのMo錯体において二酸化炭素雰囲気下で触媒電流が観測されたことから、いずれのMo錯体も二酸化炭素の還元触媒としてはたらくことがわかった。また、DPV測定の結果からMo錯体の還元電位を見積もったところ、これらの還元電位は同じ値(-1.73 V vs SCE)であることがわかった。レーザー測定によってMo錯体の励起状態寿命を調査し(MoPCY2:10 ns, Mes-MoPCY2:8 ns)、電子供与体の濃度を変化させて行う励起Mo種の消光実験によって各Mo錯体の消光速度定数を同定した。これらの還元電位および消光速度定数があまり違わなくても、二酸化炭素の還元能は大きく変化したことで、本二酸化炭素の還元反応では電子的効果より立体効果に大きく依存すると見積もられた。
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今後の研究の推進方策 |
R3年度には、可視光照射下、犠牲剤の存在下での二酸化炭素の還元は成功的に達した。今後は、その光触媒の還元機構を解明する。二酸化炭素の還元機構を提案した論文は幾つか報告されているが、短寿命中間体を実験的に観察して全体的な反応機構、もしくは生成物の選択性が変化する具体的な要因を明らかにした研究はまだ知られていない。二酸化炭素の多段階光還元過程で、電子と二酸化炭素のどちらが先に、励起された金属錯体触媒の金属中心と相互作用するかによって、生成物が変化すると我々は予想している。本研究では、過渡吸収、UV-vis吸収などの測定によって、二酸化炭素の還元反応の各種Mo中間体を調べ、反応全体の反応機構を明らかにする。 また、これらの錯体を用いた二酸化炭素の還元の応用反応を行う。これまで犠牲剤として使われたトリエタノールアミン(TEOA)や1,3-ジメチル-2-フェニル-2,3-ジヒドロ-1H-ベンゾ[d]イミダゾール(BIH)を使わず、再生可能エネルギー(水素ガスおよび水)を水素源として可視光照射下もしくは電圧印加下で二酸化炭素の還元反応を調査する。合成した錯体を半導体技術と組み合わせ、二酸化炭素の還元剤として水を用い、光還元触媒としてだけではなく二酸化炭素の電気還元触媒としてもより高い性能や実用性をもつものへと発展させる。すなわちMo錯体を炭素電極に担持させ、カソード錯体電極触媒を製作し、水中でのそれら電極触媒の電気化学的性質(アルゴンおよび二酸化炭素雰囲気下での酸化還元電位および電圧依存的な電流値の時間変化や二酸化炭素還元能の時間安定性など)を測定、比較評価する。水による二酸化炭素の電気還元反応に対して低い過電圧と高いファラデー効率でギ酸が形成することを目指す。
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