研究実績の概要 |
令和4年度は、第6周期元素を含んだ6フッ化物XF6(X=Re, Os, Ir, Pt, Au, Hg)の構造最適化をスピン軌道(SO)相互作用を含んだ相対論的多配置配置間相互作用(MRCI)法を用いて実施した。分子軌道は平均配置法を用いて計算した。ハミルトニアンには厳密2成分法(X2C)を用いた XF6に対して、赤道面上の4つのF原子と、軸上の2つのF原子の核間距離をそれぞれ変えて計算を行ない、得られた離散的なポテンシャルエネルギー曲面(PES)を多項式展開でフィッティングすることで、XF6錯体の平衡構造を探索した。 ReF6はヤーン・テラー(JT)効果による歪み構造(D4h)、IrF6とHgF6は正八面体構造(Oh)が平衡構造となり、先行研究における内殻ポテンシャル(PP)を使用したCCSD(T)法の計算と同様の傾向が得られた。OsF6については、歪み構造が得られたものの、歪みの度合いはPP-CCSD(T)法より小さかった。その理由は、当研究ではSO相互作用により正八面体構造においても分子軌道が分裂しているため、歪みによる安定化が少なくて済むためだと考えられる。 PtF6については、PESを描く過程でイオン結合的な電子状態と共有結合的な電子状態の2種類の電子状態が現れた。AuF6については、PESを描く過程でSCFが収束しない構造が現れた。PtF6とAuF6については、他の錯体の場合より小さいステップ幅を用いて、平衡構造の近傍のみに注目して構造最適化計算を実施中であるが、途中経過は良好である。 XF6錯体の構造におけるSO相互作用の影響を調べるため、SO相互作用を含まないスピンフリー(SF)相対論法を用いた計算も開始した。
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