研究課題/領域番号 |
21K14645
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
堀井 洋司 奈良女子大学, 自然科学系, 助教 (90809485)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 単分子磁石 / 2次元薄膜 / 金属有機骨格 |
研究実績の概要 |
本研究では、両親媒性を有する配位子を親水-疎水界面で反応させることで、裏表を有する新奇の二次元の金属有機骨格(MOF)を構築し、配位子のかさ高さとMOFの構造(1)、および磁気特性(2)の相関を明らかにした。 (1)フタロシアニン(Pc)-ポルフィリン(Por)からなる2層積層型の単分子磁石錯体を配位子として用い、親水-疎水界面を利用することで2次元集積体を合成した。Por部位には、水相中の金属イオン(Pd2+)と反応可能なピリジル基(Py)を導入した。また、分子のかさ高さと薄膜の構造の相関について知見を得るため、フタロシアニン部位には種々の長さを有するアルコキシ鎖を導入した。 Lamgmuir-Blodgett(LB)膜作成装置を用いて表面圧(π)vs. 分子面積(A)測定を測定したところ、金属イオン(Pd2+)存在下で分子1つ当たりの占める面積(A*)の上昇が観測されたことから、2次元集積体の形成を確認した。アルコキシ基の鎖長を長くするほどA*は大きくなったことから、配位子のかさ高さによって薄膜の構造に差異が生じることが明らかになった。また薄膜サンプルの粉末X線構造回折測定より、無置換Pcと比較して、アルコキシ基導入Pcからなる薄膜サンプルは低角側に新たな回折ピークを示すことを明らかにした。これは、アルコキシ基の導入前はPd(Py)4からなる密な集積構造を取る一方、アルコキシ基導入後ではPd(Py2)からなる疎な構造が形成されたことを示唆する結果である。 (2)磁気測定により、薄膜形成後においても単分子磁石特性が保持されていることを確認した。さらに、アルコキシ鎖が長いほど単分子磁石特性が良いことを明らかにした。これは、鎖長延長によって薄膜内の分子同士が離れた結果、分子間の磁気的相互作用が抑制されることにより、単分子磁石特性が向上したことを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度で、種々のかさ高さを有する配位子の合成、および薄膜の形成を実行することに成功しており、引き続き物性測定をおこなうための土台が整った。また、本研究により、配位子にかさ高い置換基を導入することで、薄膜の構造が密な構造から疎な構造へ変化するという、新たな知見を得ることに成功した。加えて、薄膜に対する磁気測定によって、単分子磁石挙動を詳細に明らかにし、配位子のかさ高さと磁気挙動に関する相関を得ることにも成功した。以上より、本研究課題はおおむね順調に進行していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
多層膜の物性から、単層膜の物性測定にシフトする。具体的には、単分子膜の磁気特性を解明するため、SPring-8を利用した軟X線磁気円二色性測定を行う。また水面上での薄膜の構造について知見を得るためのX線反射率測定、すれすれ角入射X線回折についても実施予定である。当初の計画にあった、薄膜のろ紙転写による分子透過能測定についても実施予定であるが、LB法を用いた積層法では積層性が悪く(第一層しかろ紙に乗らない)、効率のよい積層の手法開発は今後の課題である。
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次年度使用額が生じた理由 |
高額のLB膜作成装置を、共同研究者より長期間借りることが可能になったため、次年度使用額が発生した。これは、本年度実施予定のSPring-8における軟X線磁気円二色性測定時に必要な冷媒などへ利用する予定である。
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