2023年度はカルボキシル基あるいはヒドロキシ基を導入した両親媒性錯体配位子を新規に合成し、気液界面での結合形成反応に伴う薄膜の構築を実施しました。カルボキシル基導入型ではLayer-by-Layer法による積層化が可能であり、2021-2022年度において用いたピリジル基導入型よりも積層化の面で優れていることを見出しました。LbL法を利用することで、薄膜間に磁気的な相互作用を導入し、交換バイアス効果によって磁気特性を向上させることができると期待されます。また、ヒドロキシ基導入錯体配位子の単結晶X線構造解析より、本配位子は従来のものと比較して平面性が高く、拡張π共役系による電気伝導性の付与も可能であることから、薄膜の構成要素として有用であることを明らかにしています。いずれの研究も現在進行中です。 本研究課題では、単分子磁石かつ分子歯車として振る舞う両親媒性の錯体配位子を用い、親水-疎水界面において金属イオンと反応させることで、機能性の単分子薄膜を構築し、その構造、運動性および磁性について解明することを目的とし、次のことを明らかにしました。 ・気液界面における結合形成反応を利用することで、記録媒体に有利な垂直磁気異方性を有する単分子磁石薄膜を構築可能であること。 ・錯体配位子への置換基導入により、薄膜内での分子配列が面心格子から単純格子へ変化すること。 ・錯体配位子への置換基導入によって、単分子磁石薄膜の磁気特性が段階的に向上すること。 いずれも、分子をベースとしたボトムアップ型スピントロニクスの可能性を大きく広げるもの成果となります。また、本研究で構築した薄膜は、分子歯車が高密度に集積したような構造を有しており、その運動機能性の解明も研究の主目的として据えていましたが、現在までに歯車の回転運動を観察するには至っておらず、今後の課題となっています。
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