研究課題/領域番号 |
21K14647
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
服部 伸吾 横浜市立大学, 理学部, 助教 (90846726)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 超分子キラリティ / ベイポクロミズム / 白金(II)錯体 / 発光 / 一重項酸素 / 酒石酸 / 準安定状態 |
研究実績の概要 |
1. 白金(II)錯体キラル会合体の形成:水に溶解する白金(II)錯体を新たに合成した。吸収スペクトル測定により、本白金(II)錯体は水溶液中で会合体を形成していることが明らかとなった。さらに、白金(II)錯体会合体水溶液にキラル酒石酸を添加すると、白金(II)錯体とキラル酒石酸が相互作用することによりキラル会合体が形成され、そのキラリティは酒石酸のキラリティに依存することが円偏光二色性スペクトル測定により明らかとなった。白金(II)錯体会合体水溶液に、キラル酒石酸ジメチルをキラル酒石酸と同様にして添加したところ、キラル会合体は形成されなかったため、キラル会合体形成にはカルボン酸と白金(II)錯体との相互作用が必要であることが明らかとなった。 2. 準安定状態を有する白金(II)錯体の発見:白金(II)錯体の結晶多形を見出した。準安定状態では固体色・発光色が赤色、安定状態では固体色・発光色が黄色であることが明らかとなった。単結晶X線構造解析により、安定状態の結晶構造が新たに明らかとなった。本成果は現在論文投稿中である。 3. 白金(II)錯体のベイポクロミズム:小分子と相互作用可能なシアノ基を有する白金(II)錯体を合成した。吸収・発光スペクトル測定により、クロロホルム分子の吸脱着により白金(II)錯体の固体色・発光色が可逆的に変化することが明らかとなった。単結晶X線構造解析により、クロロホルム分子吸着時の白金(II)錯体の結晶構造が明らかとなった。本成果はDalton Transactionsに掲載された。 4. 白金(II)錯体の一重項酸素生成:有機溶媒中における白金(II)錯体の一重項酸素生成能、細胞毒性・光毒性を検討した。 5. 金属錯体のベイポクロミズム:金属錯体のベイポクロミズムに関する内容を国際会議にて招待講演を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、(1)外部刺激によるキラル誘起機構の解明、(2)外部刺激によるキラル合成の新規系の開拓、(3)外部刺激により生成されるキラル場を用いたキラル転写法の開発を行うことにより、外部刺激を用いたキラル反応化学の開拓を目的としている。本年度は、(2)(3)について検討した。(2)では、白金(II)錯体がキラル会合体を形成することを見出している。本課題である外部刺激によるキラル誘起を実現するためには、まず化学的キラル誘起剤により溶液中でキラル会合体を形成できることが重要であるため、本発見は重要であると考えられる。また、蒸気等の外部刺激によって結晶構造が変化する白金(II)錯体や結晶多形・準安定状態を有する白金(II)錯体を新たに見出しているが、白金(II)錯体にキラリティを導入した際に、外部刺激によりキラル集積構造が変化する可能性を示唆するため、重要な指針を得たと考えられる。(3)では、白金(II)錯体が効率よく一重項酸素を生成することを見出している。本課題では、キラル場で反応を行う際に、白金(II)錯体の光励起により生成した一重項酸素が基質を酸化した後、キラル場に由来した生成物のキラリティを生じることを狙いとしており、その前段階として白金(II)錯体において一重項酸素が効率よく生成することは重要な知見であると考えられる。以上より、本研究はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
1. キラル酒石酸添加により水溶液中で形成された白金(II)錯体キラル会合体は、赤色から近赤外領域に光吸収を有することが分かっている。一方、固体状態における分光学的性質(光吸収・発光・円偏光二色性)や集積構造、外部刺激(溶媒蒸気・機械的刺激)に対する応答性については未検討である。これらの検討を行い、「外部刺激によるキラル応答」に関する知見を得る。また、得られた知見をまとめ、学会・論文にて報告することを目指す。 2. 水溶性アミノ酸添加により、白金(II)錯体会合体が解離することを吸収スペクトル測定により見出している。また、水溶液中で形成される白金(II)錯体会合体、水溶液中でキラル酒石酸添加により形成される白金(II)錯体キラル会合体に比べて強い発光を示すことが発光スペクトル測定により分かっている。一方、本白金(II)錯体の光化学的評価(一重項酸素生成能)や光生物学的評価(細胞毒性・光毒性)、キラル反応への展開は未検討である。これらの検討を行い、有機溶媒中のものと比較を行うことにより、「キラル反応化学」に関する知見を得る。また、固体状態における分光学的性質や集積構造、外部刺激に対する応答性についても検討する。得られた知見をまとめ、学会・論文にて報告することを目指す。
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