研究課題/領域番号 |
21K14650
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
宮川 晃尚 筑波大学, 数理物質系, 助教 (80881599)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 細孔濃縮 / マイクロ粒子 / 顕微分光 / 酵素反応計測 / DNA計測 |
研究実績の概要 |
2021年度は、シリカ粒子へのタンパク質およびDNAの分配挙動の解明を中心に検討を行った。粒子内にタンパク質およびDNAが濃縮されるため、分配挙動の評価は重要である。酵素反応を利用した微量計測法の開発においては、HRPをモデルタンパク質として、吸着量の評価を行った。結果として、シリカ粒子内にはHRPタンパクが数十倍程度濃縮されることがわかった。過酸化水素と基質を用いた酵素反応の計測では、o-フェニレンジアミンを用いて実験を行っていたが、HRPの吸収と重なり、評価が難しくなるため、amplex redを用いた計測に切り替えることとした。これについては2022年度に行う予定である。 DNA触媒反応による微量計測では、DNAが塩基数、塩基配列、塩濃度などによって性質が変化するため、分配挙動の評価を行った。結果として、塩基数、塩基配列、塩濃度によって差は生じたものの、総じて1000倍程度の濃縮されることを明らかにした。また、それに付随して行われた分配の速度論的研究では、DNAのシリカ内への分配がタンパク質や有機小分子とは大きく異なることを明らかにした。1本差DNAの分配はシリカ粒子表面に吸着し、表面上で凝集体を形成し、その凝集体がシリカ内へ分配されることが明らかになった。その一方で、2重鎖DNAは凝集体を作ることなく分配されることが示唆されて、1本鎖とは異なることがわかった。シリカ粒子内には基本的に2本鎖を導入して計測を行う予定であったため、ここで得られた結果は、シリカ粒子内でのDNAの構造を明らかにしており、本計測法の妨げにならないことを示唆している。2022年度は実際にヘアピン構造のDNAを用いた計測を予備実験として行って、増幅反応につなげる予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
酵素反応を利用した計測法では、HRPと基質および反応生成物の相性が悪く、進捗率が良くなかった。その一方で、HRPの細孔内濃縮に関する情報は全て測定済みであり、後は微量計測を行うだけである。基質はamplex redで行うことで反応を観測することができることは過去の文献からも既知であり、大きな支障はないものと考えられる。予算の関係上、amplex redを用いた実験は2022年度に行うことになったため、この研究に関する進捗は少し遅れている。 一方で、DNAを用いた計測法に関しても同時に進めており、こちらが大きな進捗を得た。例えば、シリカ粒子内を濃縮反応場として用いるにあたり必要な濃縮倍率の情報は、DNAの塩基数、塩基配列、塩濃度、粒子細孔径の依存性について検討を行っており、全ての情報を取得済みである。また、2022年度に始めるヘアピン構造のDNAを用いた微量計測の予備検討もすでに終えており、後は条件検討を重ねて、反応メカニズムを明らかにする段階まで来ている。したがって、2022年度はスムーズにDNA触媒増幅反応を用いた計測に移行できると考えている。また、付随して行われた分配の速度論的検討では当初予測していなかった、シリカ粒子内のDNA1本鎖および2重鎖の構造的情報を得ることが出来ており、2022年度の見当に大きく役立つ結果を得ている。 したがって、HRPを用いた研究の方は少し遅れてしまったものの、DNAを用いた研究の方が大きく進捗したため、全体的に概ね順調に進展していると評価している。
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今後の研究の推進方策 |
HRPを用いた微量計測法の方は、amplex redを用いた微量計測を行う。具体的には、まずproof of conceptとして、amplex redの酵素反応による反応速度をバルク反応により確かめる。その後、シリカ粒子内での反応に適用し、反応速度・反応時間の観点から濃縮倍率との関係性を明らかにする。また、過酸化水素またはamplex red濃度を減少させ、シリカ粒子内でどれだけ微小の過酸化水素、反応基質を定量できるのかを評価する。シリカ粒子内の反応メカニズムに関しては、HRPをシリカに物理的に固定化させていないため、かなり複雑になることが予測される。したがって、反応機構の解析に関しては時間をかけて1年を通して検討する予定である。 DNAを用いた微量計測では、ヘアピン構造を用いた計測を予備実験的に行う。ヘアピンの末端にFRETで消光する色素を導入し、ターゲットと相互作用すると、ヘアピン構造が崩れて蛍光を発する系を構築する。DNAはシリカ粒子にかなり強力に吸着しているため、ターゲットDNAによって相互作用した後も粒子内でしばらく保持される。この系で、ターゲットDNAの検出限界を求める。これを3か月を目処に結論付ける。この結果をもとに、DNA触媒増幅反応に展開する。複数の種類のDNAをシリカ内に導入し、各DNAの濃縮倍率を求める。なるべく、全てのDNAが粒子内で同じ濃度になるように調整し、ターゲットDNAを導入した際の応答を評価する。また、これに関してもバルクで同様の実験を行い、速度定数や反応時間、感度の観点から評価する。
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