研究課題/領域番号 |
21K14652
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
金尾 英佑 京都大学, 薬学研究科, 助教 (40895166)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 分子インプリント法 / プロテオミクス / 構造解析 / LC-MS/MS |
研究実績の概要 |
タンパク質の三次構造やタンパク質複合体(高次構造)の網羅的解析が,生命現象を解き明かすポストゲノム研究の一つとして注目を集めている。通常,タンパク質の高次構造解析には,X線結晶構造解析を中心とした分光学的手法が用いられているが,操作の煩雑さや適応できる分子量範囲の狭さが大きな課題となっている。本研究では,タンパク質表面のペプチド鎖を選択的に捕捉する光刺激反応性有機高分子材料を創製し,液体クロマトグラフィー/タンデム質量分析 (LC-MS/MS) での極微量・超高速高次構造解析を実現することを目的とする。 本研究課題では,特定のタンパク質に対して選択的分子認識能を持つヒドロゲルと,タンパク質表面の官能基とランダムな化学結合を形成する光活性プローブを開発し,これらの要素技術を複合することで,光刺激に応答してタンパク質の表面アミノ酸残基と選択的に結合する機能性ヒドロゲルを開発する。さらに,LC-MS/MSを用いたショットガンプロテオーム解析を利用して,ゲルから酵素消化によって溶出するタンパク質高次構造の内部構造情報を読み取ることで,タンパク質の表面構造やリガンド認識部位に関する情報を高速で取得するシステムを構築する。 本年度は,要素技術の確立に注力し,ターゲット分子を鋳型として取り込んだ状態で重合し,鋳型と同形状の分子認識場を持たせた高分子マトリクスを合成する高分子合成法(分子インプリント法)を利用することで,鋳型に利用したタンパク質を選択的に捕捉するヒドロゲルの開発に成功した。さらに,形成した分子認識場にタンパク質の疎水骨格と相互作用することで蛍光を発現する8-anilino-1-naphthalenesulfonic acidをポリマー骨格に組み込み,ELISA用のタンパク質蛍光検出システムを構築することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はCOVID-19の影響もあり,学外での成果報告が少なかったが,研究課題は順調に進展していると考えられる。上述のように,本研究課題の基盤技術となるタンパク質分子インプリントヒドロゲルの合成技術に関しては,既に一定の成果を挙げている。これまでの実験から,ヒドロゲルの基材モノマーや分子認識に利用する機能性モノマーの種類,濃度,反応条件といった様々な要素に関する情報が得られており,来年度の研究の迅速な進展が期待できる。また,光活性プローブに関しても,fluoro基を導入したazideプローブを利用することで,azide活性種の安定性が向上し,水との副反応が抑制されることが明らかとなった。次年度はこれらの要素技術を組み合わせ,光刺激に応答してタンパク質の表面アミノ酸残基と選択的に結合する機能性ヒドロゲルの開発へと展開する。
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今後の研究の推進方策 |
本年度に確立したタンパク質分子インプリントヒドロゲルに,fluoro基を持つazideプローブを導入し,光刺激に応答してタンパク質の表面アミノ酸残基と選択的に結合する機能性ヒドロゲルを開発する。lysothymeやBSAなどの汎用タンパク質をモデルに,分子認識に最適なモノマー組成とazideプローブ導入量を最適化すると同時に,分子認識時のゲルの物性評価(膨潤,収縮,色等)を行う。同時に,ゲル内部に取り込まれたタンパク質の酵素消化法やLC-MS/MSによる構造解析法も最適化し,本研究のコンセプトを実証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度に購入を検討していた物品や機器がCOVID-19の影響で海外からの入荷が遅れており,本年度の購入を見送ったため未使用額が生じた。また,同理由で対面学会や会議への参加が滞ったことも原因である。
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