研究課題/領域番号 |
21K14654
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研究機関 | 福井県立大学 |
研究代表者 |
坂江 広基 福井県立大学, 生物資源学部, 助教 (00779895)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 液液界面 / 分光電気化学 / フェリチン / 分子包接 / 生体膜透過 / 膜透過性ペプチド |
研究実績の概要 |
貯蔵タンパク質であるフェリチンの水溶液中および水|1,2-ジクロロエタン界面における分子間相互作用と反応機構を、極性プローブである8-アニリノ-1-ナフタレンスルホン酸(ANS)を用いて、電位変調蛍光分光法で解析した。フェリチンケージがそれを構成するサブユニットに分解するpH 3以下およびフェリチンの等電点であるpH 4付近では、ANSと正に帯電したフェリチンサブユニットあるいはフェリチンケージ外周と相互作用することが示唆された。また、界面に吸着したフェリチンがANSのイオン移動を阻害することや、水相中でフェリチンと会合体を形成し安定化されたANSが会合体から解離しイオン移動することを明らかにした。一方で、生体環境に近いpH 7付近では、フェリチンケージとANSの相互作用は見られなかった。そこで、pHに応答するフェリチンケージのサブユニットへの分解と再構築を利用した包接特性を検討した。まず、フェリチンに内在する鉄を除去し、アポフェリチンを調製する方法を検討した。チオグリコール酸を還元剤として用い、pH 5の酢酸緩衝液を用いて透析することでアポフェリチンを得た。プローブとしてポルフィリンを用いて、一旦pH 2としてアポフェリチンケージをサブユニットに分解後ポルフィリンを添加し、中和とリン酸緩衝液によってpH 7に調整した水溶液中のポルフィリンの吸収・蛍光スペクトルは、単にpH 7の水溶液に両者を共存させた場合から大きく変化した。アポフェリチンサブユニットとポルフィリンは1:1で会合体を形成し、酸性条件下で強く会合することを明らかにした。 細胞膜透過性ペプチドであるε-ポリ-L-α-リジン(εPL)のアポフェリチンへの化学修飾にも着手しているが、反応が完全に進行せず、より詳細な条件検討が必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初、初年度に計画していたアポフェリチンへのεPL修飾は難航しているが、それに先立って、次年度以降に計画していたアポフェリチンの包接特性を定量的に評価できた。得られた知見は、今後の包接反応制御に応用できる。また、ANSを用いた電位変調蛍光分光法によって、通常、解析困難なタンパク質フェリチンの界面反応研究を可能とした。
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今後の研究の推進方策 |
アポフェリチンの膜透過性向上に作用するεPLの膜透過機構を解明する。界面に生体膜を構成するリン脂質膜やカチオン・アニオン性脂質膜を形成させた生体膜模倣界面におけるεPLの反応特性を分光電気化学的に研究する。 また、アポフェリチンへのεPL修飾条件を引き続き検討する。透析により鉄を除いたアポフェリチンを用いるだけではなく、組み換え酵素によるアポフェリチンの調製も試みる。pHやアポフェリチン/反応性官能基/εPLの混合割合などを精査する。それでもアポフェリチンへのεPL修飾が難航した場合は、生体関連色素やモデル高分子タンパク質へのεPL修飾を行い、アポフェリチンへのεPL修飾に対する知見を得る。モデル物質のεPL修飾体の界面反応機構を分光電気化学的に解明し制御することで、εPL修飾アポフェリチンの膜透過反応研究に応用できる知見を得る。
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次年度使用額が生じた理由 |
国内外学会のオンライン開催や延期により旅費・参加登録費が執行できなかったため。また、当初購入を予定していた機器の一部を譲渡されたため。延期された学会の経費及び実験必需品や新たに着手する研究手法で必要となる機器の購入に利用する。
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