研究課題/領域番号 |
21K14659
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研究機関 | 地方独立行政法人京都市産業技術研究所 |
研究代表者 |
山梨 眞生 地方独立行政法人京都市産業技術研究所, 京都市産業技術研究所, 次席研究員 (80802610)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | X線イメージング / X線回折 / X線光学素子 / アノード酸化 / 電気化学測定 |
研究実績の概要 |
巨視的な化学反応下における微細領域の結晶構造分布観察のような高空間分解能化,広視野化,短時間化の3つを同時に達成するX線回折イメージング技術が求められている。しかし,位置情報を保持するために用いられてきた従来の機械工作によるX線光学素子(ガラスポリキャピラリー(キャピラリレンズ))では高空間分解能化に対して製造技術的に限界があった。本研究課題では,機械工作とは本質的に異なる電気化学的なアプローチからアノード酸化法に着目した新規X線光学素子を作製し,これら3つを同時に達成できるX線回折イメージング法の開発に取り組んでいる。アノード酸化法(ポーラス型)は電解液中で電気化学反応により電極表面の金属を金属酸化物へ変換すると同時に,ナノスケールの細孔が無数に配列した自己規則的な多孔質酸化皮膜を形成できる。この皮膜を新規X線光学素子として適用するために,微細な細孔径や広視野領域の素子面積,充分な膜厚といった特徴を実現する必要がある。 2021年度の主な取り組みとして基材や電解液,電気化学測定条件を最適化することで,上述した特徴を満たすアノード酸化皮膜作製法を検討した。 具体的には基材として先行研究成果からAlを,電解液には比較的低い電圧で目標とする細孔径かつ開口率を達成できる数種類の溶液を候補とし,定電圧,定電流条件下にてアノード酸化を行った。また,特に困難とされる厚膜化に対して有効である電解液への有機溶媒添加についても検討した。その結果,上述した特徴を満たすアノード酸化皮膜作製条件を見出すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アノード酸化反応では,細孔の形成(化学溶解)と酸化皮膜の成長(酸化反応)が競合している。反応初期には細孔の形成とともに酸化皮膜が成長していくが,次第に化学溶解が皮膜成長よりも優先する結果,厚膜化の限界に到達する。そこで2021年度は化学溶解を抑制し,皮膜が持続的に成長可能なアノード酸化条件(電解液種や濃度,有機溶媒添加等)について検討した。その結果,当初の計画通り,概要に記載した新規X線光学素子としての特徴を満たす,アノード酸化皮膜作製条件を見出した。本結果は様々な検討条件の中の一つであるため,今後再現性の確認や他条件を実施し,厚膜化が可能な要因を明らかにする。
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今後の研究の推進方策 |
(1) 上述したアノード酸化条件に加え他条件についても実施し,細孔径や膜厚等を測定しながら,厚膜化が可能な要因を明らかにしていく。また,厚膜化についての実施例は少ないため,(1)の結果をまとめ,学会,論文等での成果発表を検討する。 (2) 新規X線光学素子として利用するためには,作製したアノード酸化皮膜をスルーホールメンブレンとして基材から剥離し,取り出す必要がある。先行研究を参考にしながら,剥離条件について検討する。 (3) ガラスポリキャピラリー(ストレート型)と二次元検出器を用いたX線回折装置に,新規X線光学素子を組み込み,X線回折イメージング法としての有効性(特に高空間分解能であること)を実証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
入荷の遅れにより実験に使用する消耗品の購入が進まなかったことや二次元検出器の費用が当初より減額した。また,学会等がリモート開催となり,旅費等がかからなくなったため,次年度への繰り越し金額が発生した。次年度は今後の研究の推進方策の通り,実験に必要な消耗品の購入や学会,論文等での成果発表に充てる計画である。
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