研究課題/領域番号 |
21K14666
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
市塚 知宏 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 研究員 (50783924)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | フロー合成 / 不均一系触媒 / 付加反応 / 二酸化炭素 / カルバミン酸エステル |
研究実績の概要 |
アミドは、医薬品や農薬、機能性化学品などの様々な分子に含まれており、有機分子において最も重要な基本構造のひとつである。その合成法としては、縮合剤等を用いてカルボン酸とアミンからアミドを合成する方法がよく用いられるが、これは縮合剤に由来する大量の廃棄物が生じる環境負荷の高い方法である。最近では、縮合剤を使わない触媒反応によりカルボン酸や中性エステルからアミドを合成する環境調和型の方法も開発されている。しかし、反応性の低いアミン(アリールアミンなど)への適用は難しく、縮合剤を用いる従来法が未だに使われ続けている。 本研究課題において、中性エステルであるカルボン酸ビニルエステルが固体酸触媒により活性化できることを見出し、それを利用したN-アリールアミドの触媒的合成法を開発した。このカルボン酸ビニルエステルは、カルボン酸とアルキンの触媒的な付加反応により簡便に調製することができ、かつ安定で取り扱い易い中性エステルである。水中にて、このカルボン酸ビニルエステルとアリールアミンを固体酸触媒存在下にて加熱攪拌したところ、対応するN-アリールアミドが高収率で得られることを見出した。この反応では、水中でもエステルの加水分解がほとんど起こることなく、アミド化反応が優先して進行している点で興味深い。また、この反応で生じる共生成物は除去容易な低分子量ケトン(アセトンなど)のみである。さらに、簡単な溶媒洗浄のみでアミド生成物と固体酸触媒が分離することができ、触媒の再利用も可能である。 現在、触媒反応の基質一般性やメカニズムについて検証を進めており、反応の適用範囲や触媒活性種に関する知見が集まりつつある。さらに、本反応を利用した医薬品や農薬分子の高効率合成にも成功している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
カルバミン酸ビニルエステルのフロー精密合成に関する研究については、中間体の不安定性に起因した課題が明らかとなり、当初期待していたような成果が得られていない。今後は、反応プロセスや触媒の設計を見直すなどして、課題解決に取り組んでいく。 一方で、本研究課題に取り組む過程で、カルボン酸ビニルエステルの触媒的な活性化法を見出し、それを利用することでN-アリールアミドの触媒的な合成法を開発することに成功した。N-アリールアミドは、原料のアリールアミンの低い反応性に起因し、触媒的な合成が難しいことが知られている。本研究で見出した手法は、医薬品や農薬として有用なN-アリールアミドを低環境負荷かつ高効率に合成できる画期的な合成法と言える。また、この触媒反応から得られた知見は、研究計画にあるカルバミン酸ビニルエステルの合成や有効利用に関する研究にもフィードバックすることが可能である。したがって、当初の研究計画から修正はあるものの、予想外の成果や知見が得られていることから、プロジェクト全体としては十分な進捗があったと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
カルバミン酸ビニルエステルのフロー精密合成に関する研究については、後述の各プロセスが抱える諸問題を解決して研究を推進する。 前段の吸収プロセスでは、反応選択性については改善がみられたものの、中間体の安定化が不十分であり、後段の反応プロセスとの連結を妨げている。この問題については、計算化学等も用いながら中間体の分解メカニズムや安定化に寄与する因子を明らかにすることで、解決を試みる。 後段の触媒反応プロセスでは、固定化触媒の耐久性に課題があり、フロー反応の開発の妨げとなっていた。固体NMRやXPS等による構造解析により触媒の劣化因子を特定し、フロー反応条件に適した触媒の改良を進める。 また、これらの研究と並行して、昨年度見出したアミド化反応に関する検討も引き続き進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入物品の価格変更により生じた差額分により、次年度使用額が発生した。この分については、翌年度分の物品費として適切に執行する。
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