研究課題/領域番号 |
21K14669
|
研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
清田 小織 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 技術職員 (20376883)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 共役トリエン / ルテニウム錯体 / ADA型分子 / 自発分極 / DAポリマー |
研究実績の概要 |
DAポリマーとは電子豊富な芳香族(Doner)と電子不足な芳香族(Acceptor)が交互に結合された高分子であり、ドーパントの添加なしに自発的な電子移動が共役系全体に広がるため、導電性高分子や太陽電池材料として期待されている。しかし、従来のDAポリマーの合成法は全てハロゲン化合物を用いた縮重合であるため、形成された結合と同じ数のハロゲン塩や金属ハロゲン化物が副生することになり、これらの混入が問題となっていた。この合成上の問題の本質は、従来のDAポリマーはすべて縮重合によって合成されていることにある。そこで、本研究の目的は付加重合によりDAポリマーを合成することとした。 申請者らは形式的に共役ジエンの末端炭素―水素結合にアルキンがsyn選択的に挿入する0価ルテニウム錯体を用いた新しい触媒反応を見出しており、2021年度にはこの触媒反応により共役トリエン鎖で架橋されたDA型二量化体およびADA型三量化体の合成と物性測定を行った。ドナーとして2位にアルキニル基を導入したチオフェンとアクセプターとして2位にジエニル基を導入したピリジンを合成し、0価のルテニウム錯体を用いて反応を行ったところ、DA型二量化体が生成し、また、ドナーとして2,5位にアルキニル基を導入したチオフェンを用いた際にはADA型三量化体が生成し、本反応により共役トリエン鎖架橋型のDA型分子の構築が可能であることが明らかとなった。また、これらの分子の物性評価をUV-vis及びCV測定により行ったところ自発分極した分子であることが確認された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アルキニル基およびジエニル基を有する芳香族複素環の反応により、共役トリエン鎖で架橋された二量化体の合成を検討した。[Ru(naphthalene)(1,5-cod)] (8 mol%)を触媒として、2-オクチン-1-イルチオフェンと2-ブタジエニルピリジンとの反応をベンゼン中、70度で1日行ったところ、他の方法では合成が難しいDA型共役トリエン化合物が高収率で生成した。この反応を交差三量化に適用し、2当量の2-(ブタジエン-1-イル)ピリジンと2,5-ジ(ヘキシン-1-イル)チオフェンとの反応を行ったところ、中程度の収率であったがチエニル骨格を中心としたCs対称性のAcceptor-Donor-Acceptor型(ADA型)三量化体の合成に成功した。次に、Donor-Acceptor-Donor型(DAD型)分子の構築を目的として、2-ブタジエニルチオフェンと 2,6-ジ(ヘキシン-1-イル)ピリジンとの反応を行ったが反応は進行しなかった。これらの事実から、本触媒反応ではジエン側にπ電子欠乏性芳香族複素環、アルキン側にπ電子過剰芳香族複素環が必要であることが分かった。しかし、より電子不足なフタルイミド骨格やキノキサリン骨格を持つジエンを合成し、反応を試みたが低収率もしくは反応せず、これはジエニル基近傍のヘテロ原子が反応を阻害していると考えられる。今後、収率や基質検討に改善の余地があるものの、本反応により共役トリエン鎖架橋型のDA型分子の構築が可能となった。共役トリエン鎖架橋型芳香族分子の物性評価を紫外可視吸収スペクトル、蛍光スペクトルおよびサイクリックボルタンメトリー測定により行ったところ、2-ピリジル基と2,5-チエニル基が共役トリエン鎖により架橋されたADA型分子は、共役トリエン構造を介した分子内電荷移動状態に基づく自発分極した分子であることが示唆された。
|
今後の研究の推進方策 |
2022年度には、2021年度に成功したADA型三量化体の合成と物性測定に加えて、DAD型三量化体の合成ならびに付加重合によるDA型高分子の合成を行う。予備的結果としては、すでに2,6-ジブタジエニルピリジンと2-オクチン-1-イルチオフェンとの反応によりDAD型三量化体の生成が確認されており、チエノチオフェン骨格やシクロペンタジチオフェン骨格、アクセプターとしてチアジアゾピリジン誘導体等を導入した基質を合成し、それらを用いて各種DA型分子の合成を行い、物性評価を行う。 また、モデル反応として、ジビニルベンゼンとビス(ペンタジエン酸)ヒドロキノンエステルとの反応を[Ru(naphthalene)(1,5-cod)]を触媒として行ったところ、重合度が2から8程度のオリゴマーが生成し、原理的には本コンセプトに基づいた新規な反応により重合が可能であることが示唆されていることから、2,6-ジブタジエニルピリジンと2,5-ジ(ヘキシン-1-イル)チオフェンとの反応をこの触媒を用いて行うことにより、DAポリマーを合成し、紫外可視吸収スペクトル、蛍光スペクトルおよびサイクリックボルタンメトリー測定などにより物性評価を行う。昨年度の検討により触媒の失活要因や高効率な付加反応が進行する基質の組み合わせなどが明らかとなったため、引き続き触媒の配位子や溶媒等の検討を行い、より高収率でDAポリマーが生成する条件を検討する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由: 理由は2点あり、1点目は昨年度の研究においてピリジル基に一つまたは二つのブタジエニル基を導入することに成功したが、反応が極めて遅く終夜加熱する必要が生じた。このため第3四半期に本反応を安全に長時間反応させるためにアルミビーズヒーターと直接接続できる加熱ヒーター付きマグネチックスターラーを購入する計画であったが半導体不足等により年度内納入が難しいことが判明し、2022年度第1四半期に発注したためである。2点目としては2021年度の研究成果をもとに2件の成果発表と3件の関連発表を行ったが、すべて新型コロナウイルス感染拡大のためオンライン開催となり旅費が不要となったため。 使用計画: 触媒となる錯体の合成や触媒反応に原料となる試薬、不活性ガス、液体窒素、ガラス器具および実験用機器(撹拌用品他)が必要となるため、これらを消耗品購入費に計上している。DAポリマー合成の原料となる化合物を大量に合成する必要があるため、昨年度発注予定であったアルミビーズヒーターと直接接続できる加熱ヒーター付きマグネチックスターラーを2022年4月に発注済みであり、8月下旬に納入予定との報告を受けている。また、研究成果発表を積極的に行うために成果発表旅費を計上している。生成物の同定に、本学の機器分析センター所有の機器を用いるため、そのための分析機器使用料をその他の経費として計上している。
|