本研究の目的は,生物の細胞表面を覆う厚さ数ナノメートルの生体膜の特異な構造に着目し,その内部を合成反応場として活用することで,単層二次元高分子の精密合成を実現することである.前年度に表面化した問題点を受け,本年度では両親媒性構造を有する金属触媒を新たに合成した.具体的には,疎水性のオリゴフェニレンエチニレン骨格を薗頭カップリングにより合成し,これをウィリアムソンエーテル合成によって親水性オクタエチレングリコール鎖と連結させた.続いて,配位子交換反応によって分子中央部にルテニウム錯体を導入することで,目的の両親媒性触媒分子の合成を達成した.この触媒分子の水中における触媒活性を評価するべく,モデル基質を添加して一定時間後に核磁気共鳴スペクトル測定によるコンバージョンの算出を行ったところ,驚くべきことに同様の配位子構造を有する市販の水溶性触媒の活性を優位に上回ることが明らかとなった.このメカニズムを検証するべく,光学顕微鏡による観察を行ったところ,本研究で合成した両親媒性触媒分子は水中で液滴を形成し,その内部に疎水性分子を濃縮できることが明らかとなった.同様の現象がオレフィン基質についても起こったために,水中における高い触媒活性が発現したと考えられる.今後は,以上の研究成果を学術論文として発表するとともに,この特異な触媒能を生体膜の内部へと展開することで,当初の目的であった生体膜内部における高分子合成を実現していく.
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