研究課題/領域番号 |
21K14678
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中川 慎太郎 東京大学, 生産技術研究所, 助教 (40806642)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 架橋高分子 / 力学特性 / 動的結合 / ゲル / エラストマー |
研究実績の概要 |
ゲルやゴムといった材料は、高分子を架橋した三次元網目構造からなる。これらの架橋高分子材料に弱く可逆な動的結合を組み込むことで、力学的な強靭性や自己修復性などの優れた機能が実現される。しかし、動的結合の結合エネルギー等の分子レベルの特性と、架橋高分子の巨視的な力学特性を関連づける学理はいまだ確立されておらず、望みの力学機能を得るための確固たる材料設計指針が存在しない。本研究では、種々の動的結合が架橋高分子に及ぼす影響を精密に調べ、動的結合の種類によらない普遍的法則とその根底にあるメカニズムを紐解くことを目的としている。構造均一な架橋高分子をプラットフォームとしたモデル系の合成および特性評価、ならびに量子化学計算等を用いた動的結合の特性評価を行い、スケール横断的な解析を通じて目標達成を目指す。 本年度は、動的結合を組み込んだモデル系の構築に取り組んだ。まず、動的結合として構造明確な金属-配位子相互作用を選択し、配位子を導入した新規モデル高分子の合成法を検討した。制御ラジカル重合と重合後修飾反応を組み合わせ、望みの分子設計の高分子を収率よく得る方法を確立した。このモデル高分子に種々の金属イオンを添加したところ、強度の異なる架橋高分子が得られた。この架橋高分子は熱可塑性を示したことから、動的結合による架橋の存在が示唆された。金属種の種類や添加量によって、可逆性が変化す予備的知見も得られた。次に、動的結合を組み込む土台となる、構造均一な架橋高分子の合成法を検討した。これまで我々が用いてきたアクリレート系ポリマーだけでなく、ポリエステル系ポリマーでも構造均一な架橋高分子が得られることを見出した。以上のように、動的結合の性質を調べるのに必要な要素技術を確立することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の主な内容である、構造均一な架橋高分子を用いた動的結合のキャラクタリゼーションに必要な実施事項である、動的結合を有する高分子の合成法の確立と動的結合の強度調節の確認が完了した。さらに、これまで持っていた構造均一な架橋高分子の合成技術にも進展があった。これにより、動的結合の特性評価のためのプラットフォームが確立された。なお、当初は動的結合として水素結合をまず検討する計画だったが、さらにシンプルかつ特性の調節が容易な金属-配位子結合の検討に切り替えた。本研究の目的が動的結合の種類によらない普遍的法則の抽出であることから、この変更は計画の遅れにはつながらず、むしろ円滑な進展に貢献するものである。以上から、本研究はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
本年度に得た知見を活用して、実際にモデル架橋高分子を構築し、その特性評価を行う。現在使用している金属-配位子結合は金属種やその量を変更することで容易に動的結合の特性を調節できる。この性質を利用し、動的結合の強さの関数として架橋高分子の特性データを集める。一方で、動的結合の分子特性の解析を進める。これは、分光学的・熱的測定による実測と、量子化学計算等の計算科学的手法を相補的に用いて、多面的に評価する。これらのスケール横断的なデータから、金属-配位子結合の分子特性と架橋高分子の巨視的特性の相関を解明する。さらに、異種の動的結合として水素結合や動的共有結合も検討し、動的結合に共通の普遍的法則の確立を目指す。
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