柔軟な高分子鎖の三次元網目からなる架橋高分子は、ゲルやゴム等の材料として多様な用途に利用されている。一般に架橋高分子は不可逆な共有結合のみにより構成されるが、動的結合と呼ばれる弱く可逆な結合を部分的に組み込むことで、力学的な強靭性や自己修復性などの優れた機能が実現される。本研究では、種々の動的結合が架橋高分子の物性に及ぼす効果を定量的に比較し、異種動的結合の「個性」および種類によらない普遍性を抽出することを目的としている。 最終年度となる本年度はまず、前年度から継続して、イオン性相互作用および金属-配位子相互作用を有するモデル高分子の詳細な解析を行った。線形粘弾性解析により、動的結合の分子レベルの特徴と高分子鎖の緩和挙動の直接的な相関を解明した。イオン性相互作用を有する高分子と金属-配位子相互作用を有する高分子で、互いに粘度がほとんど等しいものでも、緩和速度の分布が異なるという興味深い結果が得られた。これは二種類の全く異なる動的結合の「個性」を示すことに成功した初めての例として意義深い。 さらに巨視的なスケールでの材料物性における動的結合の役割を解明するため、星型高分子の末端間結合により得られる均一な高分子ネットワークに各種動的結合を導入したモデル均一架橋高分子(エラストマー)を合成し、これらのエラストマーの力学物性を調べた。前述の線形粘弾性解析において粘度に対する効果がほとんど等しいことが分かっているイオン性相互作用と金属-配位子相互作用の間での比較から、これらの動的結合がエラストマーの大変形領域での物性には全く異なる効果を及ぼすことが分かった。これは、線形粘弾性解析で判明した緩和速度の分布という「個性」が現れた結果である。この知見は、架橋高分子材料における動的結合の分子設計指針に重要な示唆をもたらすものであり、意義深い。
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