本年度は、昨年度に調製した環状高分子の粘弾性挙動における、更なる追究を行った。具体的には、線状高分子中に環状高分子あるいはその同族体を混合した際に、線形粘弾性応答に与える影響を調査した。分子量42万(絡み合い点数約24)の高分子量線状ポリスチレン(PS)に、分子量約8万(絡み合い点数4.7)の線状PSを同モル混合した場合、異成分の2段階の緩和により、終端緩和が加速したのに対し、分子量約3万(絡み合い点数1.8)の環状PSを混合した場合は1段階の緩和で、線状鎖ブレンドよりも遅い終端緩和が確認された。この結果は、比較的分子量の低い環状鎖を線状鎖に混合した場合も、鎖の形態のエントロピー駆動で線状鎖が環状鎖中に自発的に貫入する分子描像を支持する。さらに上記線状PSの両端に同環状PSを連結したダンベル型PSを高分子量PS中に等モル混合した場合は、線状鎖単体よりも遅い1段階の終端緩和挙が確認された。この結果は、ダンベル鎖の両端環状部が高分子量線状鎖による貫入を受け、擬似的な架橋点として振る舞ったことを示唆する。また様々な環状高分子同族体の粘弾性挙動を評価する上で、任意の環状分子構造を持つ試料に付いて、バネ-ビーズモデルによるRouseマトリクス解析が可能であることも確認し、実際に実験データとの比較検証も行った。本来予定していた、非平衡状態の構造・運動性評価のための流動中性子散乱測定には、実験条件の制約のために実施することができなかった。それでも今回得られた知見は、未だ理解不十分な環状高分子ならびに環状/線状高分子ブレンドの粘弾性特性を理解する上で進展がある。
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