研究実績の概要 |
高分子電解質は,溶液中において,対イオン解離による電荷間の静電反発が溶液物性を著しく変化させることが知られている.しかしながら,従来の粘弾性測定手法では,高分子電解質の絡み合い粘弾性を実験的に観測することが困難であり,静電相互作用が高分子電解質の絡み合い粘弾性に与える影響は解明されていなかった.そこで本研究では,拡散波分光法(DWS)という手法を適用し,従来の粘弾性測定装置では測定不可能であった高分子電解質水溶液の高周波粘弾性測定を試みた.測定試料としては,分子量の異なる単分散ポリスチレンスルホン酸ナトリウム(NaPSS)を使用し,ポリスチレンの単分散粒子をトレーサー粒子としてNaPSS水溶液に分散させ,NaPSSのモノマー濃度を系統的に変化させながら複素弾性率の周波数依存性を調査した.DWS法を適用すると,絡み合い粘弾性解析に必要なゴム状平坦領域を実験的に観測することができた.そこでまず,市販されているNaPSSで最も分子量の大きい試料をモデル高分子電解質として使用し,平坦弾性率,レプテーション緩和時間,絡み合い鎖のRouse緩和時間が,NaPSS濃度に対してどのように変化するのかを評価した.結果として,いずれの粘弾性量もDobryninのスケーリング理論(Macromolecules, 1995)が予測する,静電相互作用の影響を受けた絡み合い高分子電解質鎖のスケーリング則を観測した.次に,分子量の影響を評価した.すると,分子量の低いNaPSS溶液では粘弾性パラメータが電気的に中性な高分子溶液のスケーリング則に従うことがわかり,NaPSSの絡み合い粘弾性が分子量によって変化することを解明した.最終年度では,得られたDWS結果と先行研究で報告されている実験結果を用いた詳細なスケーリング解析を行い,観測されたNaPSS鎖のふるまいの変化が自己遮蔽効果によることを提案した.
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