研究課題/領域番号 |
21K14688
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
秦 裕樹 東京工業大学, 物質理工学院, 助教 (30872981)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | セルロース / 自己組織化 / ナノ構造 / 医用材料 |
研究実績の概要 |
本年度は、まず、布繊維表面のナノスパイク化を検討した。ここでは基礎的な知見を得るため、予め調製したセロオリゴ糖を用いることとした。前年度までの紙のナノスパイク化では、紙自体をリン酸により部分溶解および加水分解することでセロオリゴ糖を生成させ、続いて自己集合化させていたが、この場合にはセロオリゴ糖が部分溶解した長鎖セルロースと共集合することでナノスパイク構造を形成している可能性も残されていた。他方、予め調製したセロオリゴ糖を医療用ガーゼ中で自己集合化させた結果、この場合にも繊維表面でナノスパイク構造を形成した。したがって、セロオリゴ糖は単独での自己集合化によりナノスパイク構造を形成できることが明らかとなった。続いて、ナノスパイク表面への細菌の付着挙動を評価した。まず、通常の緩衝液中で大腸菌や緑膿菌の付着挙動を評価した結果、通常のガーゼと比較してナノスパイク化ガーゼは細菌付着を抑制することがわかった。通常のガーゼの平滑な表面と比較してナノスパイク表面の方が細菌との接触面積が小さいためと推察される。一方で、タンパク質を含む緩衝液中では、ナノスパイク表面は細菌付着をむしろ促進することが明らかとなった。ナノスパイク表面にタンパク質が吸着しており、そのタンパク質吸着層によって細菌付着の傾向が大きく変化したものと考えられる。近年、種々の素材からなるナノスパイク構造の細菌への作用が報告されているが、タンパク質存在下における作用はほとんど調べられていないことを考慮すると、本結果はナノスパイク材料をバイオマテリアル応用へと展開していく上で重要な知見であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度までに見出した銀ナノ粒子との複合化による抗菌性の付与に加え、セロオリゴ糖からなるナノスパイク構造そのものが示す細菌への作用(すなわち細菌付着抑制・促進作用)を見出した。セロオリゴ糖の自己集合化によりナノスパイク化されたセルロース繊維素材の医用材料機能が明らかとなったことから、このように判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究目的を精緻に達成するために再現実験を実施するとともに、学会あるいは学術論文で発表を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
ナノスパイク化セルロース材料の医用材料機能として細菌への作用が明らかとなり、その検討に必要な実験は外部委託することなく学内で実施できたため、分析依頼費への使用額が予定より少なくなった。また、研究代表者が東京工業大学に異動し、外部委託予定であった化学分析を学内で実施できるようになったこともあり、残額が生じた。次年度、再現実験の実施、ならびに学会あるいは学術論文での発表にかかわる費用に充当する予定である。
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