研究実績の概要 |
結晶内で運動し、誘電応答を示す擬ロタキサンの開発を目的として、dibenzo[24]crown-8 とdialkylammonium (R2NH2+; R = CH3, C2H5, C3H7, C4H9) の組み合わせからなる超分子カチオンを導入した[Ni(dmit)2] 塩(dmit = dmit2- = 1,3-dithio-2-thione-. 4,5-dithiolate) の単結晶作製を試み、得られた単結晶に関し結晶構造ならびに誘電応答を評価した。 原料を溶媒に溶解させ、室温大気下で溶媒を蒸発させた結果、R = CH3, C3H7, C4H9 の dialkylammoniumを導入した単結晶 (R2NH2+)(dibenzo[24]crown-8)[Ni(dmit)2] (R = CH3, C3H7, C4H9)をそれぞれ得た。 得られた結晶に関し、単結晶X線構造解析を行ったところ、dialkylammonium が dibenzo[24]crown-8の環構造を貫通した擬ロタキサン構造を形成していた。擬ロタキサンのうち、(R)2NH2+ (R = C3H7, C4H9)カチオンが結晶内で2サイト(各占有率0.5)でディスオーダーしていたことから、結晶内分子運動が示唆された。 得られた塩に対し、複素誘電率の温度周波数依存性を測定した。R = C3H7 のカチオンを導入した塩では、結晶b軸方向に交流電場を印加したときに明確な誘電緩和を示した。カチオンの電荷位置であるN原子は結晶b軸に沿って揺動することから、結晶内分子運動によって誘電応答が生じたと考えられる。 以上より擬ロタキサンは、[Ni(dmit)2]結晶内で分子運動が可能であり、分子運動に基づく誘電応答を示唆する結果を得た。本検討を通して、擬ロタキサンの動的機能開拓に重要な基礎知見を得ることができたといえる。
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今後の研究の推進方策 |
擬ロタキサン構造の結晶内分子運動に基づいて誘電緩和が生じていることを示唆する結果を得た。誘電緩和は、低温・高温で個々の分子がそれぞれ静止・運動している状態を捉えていると考えられる。擬ロタキサン構造に基づく強誘電体の開拓には、分子運動可能なカチオンによる協働的な動作を実現することが必要である。dialkylammoniumの末端にハロゲン基や水酸基、ニトロ基などの置換基を導入することで、隣接分子間での分子間相互作用が働き、協働性が生じる可能性がある。dialkylammonium 末端に置換基を導入することは容易である。またアルキル鎖長2あるいは3 の末端に置換基を導入することで、アルキル炭素数3,4の塩とほぼ同型の結晶が得られると考えられる。これらの知見に基づいて、bis(2-chloroethyl)ammonium, bis(2-bromoethyl)ammonium, bis(2-iodoethyl)ammonium を導入した塩の作製を既に実施している。さらに、分岐鎖dialkylammonium、かさ高いフェニル基を末端に持つdialkylammoniumも検討を開始した。これらの塩の結晶構造・誘電応答の評価を通して、強誘電性を示す擬ロタキサン結晶の開拓に取り組む。
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