研究課題
鉛(Pb)の代わりに環境負荷の小さいスズ(Sn)を用いたスズ系ペロブスカイト太陽電池の高性能化が強く求められている。Sn系太陽電池の素子特性低下の大きな原因として、Snペロブスカイト材料の伝導帯準位と、電子回収材料として用いられるフラーレンC60のLUMO準位とのエネルギーミスマッチが挙げられる。そこで本研究では、LUMO準位を精密に制御できる独自の非フラーレン電子回収材料を開発し、界面での電子構造の改善により太陽電池特性を向上することを目的とした。高い電子受容性をもつ骨格としてロダニンおよびチアゾリジンジオンに着目し、これらをさまざまなコア骨格に導入した一連の電子回収材料を設計した。理論計算によりLUMO準位を見積もり、ペロブスカイト材料の伝導帯準位とのマッチングを考慮して分子設計を行った。これら一連の標的化合物は、アルキル基を導入したロダニンおよびチアゾリジンジオン誘導体と、各種アルデヒドおよびケトン化合物との縮合反応により合成できることがわかった。また、ITOなどの透明電極に吸着させて用いる単分子材料としての展開のために、金属酸化物へのアンカー部位としてホスホン酸基を導入した電子回収材料の開発にも取り組んだ。アルキル基の導入と同様の手法でホスホン酸エステル基を導入でき、ホスホン酸への変換が可能であることを確認した。今後は、合成したこれらの材料を用いて実際にSn系ペロブスカイト太陽電池を作製し、電荷回収材料としての性能評価を行う。
2: おおむね順調に進展している
初年度は、ロダニンおよびチアゾリジンジオンをさまざまなコア骨格に導入した一連の電子回収材料について、その合成手法の確立に取り組んだ。ロダニンおよびチアゾリジンジオンに対して水酸化カリウムを作用させてカリウム塩を合成し、アルキルハライドと反応させることで各種アルキル基を導入できた。これらの化合物に対して、ピペリジン存在下、アルデヒドやケトン(テレフタルアルデヒド、N-メチルイサチン、etc.)とのクネーフォナーゲル縮合を行うことにより、一連の標的化合物を合成できることがわかった。また、単分子電子回収材料への展開のために、金属酸化物へのアンカー部位となるホスホン酸基導入反応の検討も開始した。ロダニンおよびチアゾリジンジオンのカリウム塩に対して、2-ブロモエチルホスホン酸ジエチルあるいは3-ブロモプロピルホスホン酸ジエチルを反応させることにより、リン酸エステル基が導入できることを見出した。また、リン酸エステル基はトリメチルシリルブロミドを作用させることでホスホン酸へと変換できることを確認した。
リン酸エステル基を導入したロダニンおよびチアゾリジンジオンに対して、アルデヒドやケトンとのクネーフォナーゲル縮合、続くエステル基の脱保護により、ホスホン酸基をもつ単分子電子回収材料の開発を行う。開発した一連の電荷回収材料を用いて実際にSn系ペロブスカイト太陽電池を作製し光電変換特性を評価するとともに、過渡吸収、蛍光寿命や電子スピン共鳴(ESR)などの分光測定により電荷取り出しのダイナミクスを解明する。得られた構造―物性相関をもとに分子構造の最適化を行い、Sn系ペロブスカイト太陽電池の高性能化を実現する。
次年度は、開発した電荷回収材料について、太陽電池作製や各種分光測定による性能評価を本格的に開始する。そのため、透明電極付き基板、ペロブスカイト試薬および溶媒、金属電極、グローブボックスの不活性ガスなど多額の消耗品を使用する予定である。
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Physical Review Materials
巻: 6 ページ: L043001
10.1103/PhysRevMaterials.6.L043001
Energy & Environmental Science
巻: - ページ: -
10.1039/d2ee00288d
Physical Review Research
巻: 3 ページ: L032021
10.1103/PhysRevResearch.3.L032021