研究課題/領域番号 |
21K14696
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
吉村 彩 愛媛大学, 理工学研究科(工学系), 助教 (50772696)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 二次電池 / 正極活物質 / 有機材料 / 高サイクル特性 / 電解重合 |
研究実績の概要 |
本研究では、有機正極活物質の電解液に対する溶解性の高さを改善し、高い容量、高いサイクル特性、高いエネルギー密度を同時に満たす有機分子の開発を目指している。 令和3年度は、テトラチアフルバレン(TTF)の周辺部に4つのトリフェニルアミン部位を有する分子(4TPA-TTF)を合成し、それを正極活物質とするコイン型二次電池の充放電特性を評価した。その結果、充放電試験中に電池の内部で4TPA-TTFの重合反応が進行することを明らかとした。これにより、有機正極活物質の最大の課題であった電解液に対する高い溶解性という問題を解決することができ、サイクル寿命の大幅な向上を達成した。また、容量は理論容量のほぼ100%、エネルギー密度は487 mWh/gを示した。活物質配合量は10 wt%から60 wt%まで検討したが、いずれの場合も高いサイクル特性を示した。X線構造解析にも成功し、電極中における活物質分子の結晶構造に関する知見を得ることができた。 次に、電池の高容量化を目的に、2つのトリフェニルアミン部位で置換された1,3-ジチオール環を有するTTF誘導体(2TPA-TTF)および2TPA-TTFの片側にベンゼン環を縮合させた分子(2TPA-bzTTF)を合成し、酸化還元挙動をサイクリックボルタンメトリー法により調査した。その結果、4TPA-TTFと同様に、マルチスキャンした場合に電流値の継続的な上昇が観測され、酸化還元電位測定中に電解重合が進行していることが確認できた。2TPA-TTF、2TPA-bzTTFを正極活物質とする電池の充放電特性を測定したところ、いずれの場合も高いサイクル特性を示した。また、2TPA-TTFと比較して、2TPA-bzTTFは電子利用率が高いことを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
4TPA-TTFを正極活物質として用いた電池の特性を評価したところ、研究計画時に予想していた通り、電池の内部で4TPA-TTFの重合反応が進行することが明らかとなり、有機正極活物質の欠点であった、「短寿命」を克服することに成功した。また、2TPA-TTFや2TPA-bzTTFなどの合成にも成功し、充放電特性のデータを得たことなど、当初の計画通り順調に研究が進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は当初の計画通り、より高い容量を示す有機正極活物質として、フェニルアミン部位やヘテロ環を有するTTF、ピラン、チオピランの合成に取り組む。合成に成功した分子について、酸化還元挙動を解明すると共に、それらを正極活物質とする電池を作製し充放電特性を評価する。また、それらのレドックス反応について解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
金額の大きい設備備品や一部の高価な消耗品の購入を見送ったため、次年度使用額が生じた。また、学会や打ち合わせがオンラインになったため、当初計画していた旅費も全く使用する機会がなかった。 令和4年度は、令和3年度に合成できた分子をスケールアップ合成して電池特性を評価する。そのため、大量合成のための試薬や溶媒、ガラス器具などの消耗品として約2000千円使用予定である。対面での学会や打ち合わせが可能となれば、年間約3回の学会参加や年間2回の打ち合わせのために旅費として約400千円を使用予定である。また、学会登録費や英文校閲、学内・学外の機器使用料として約300千円使用予定である。
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