本年度は2分子膜型層状分子配列における分子間相互作用の増強の観点から,拡張パイ電子骨格をベースとした非対称置換型の新規物質開発に取り組んだ. まず,層間方向の相互作用の増強を目指し,非対称置換基の片側のフェニル基末端への分子修飾を試みた.昨年度開発したトリル基末端のメチル基をジフルオロメチル基およびメトキシ基に替えた誘導体を合成した.これにより,メチル体では非対称分子がhead-to-tail型に接触する極性構造を形成するのに対し,ジフルオロメチル体およびメトキシ体では分子がhead-to-head (tail-to-tail)型に接触する2分子膜構造を構築し,末端基の変調で分子配列を制御できることが明らかになった.興味深いことに,これら両化合物の2分子膜構造は異なり,ジフルオロメチル体は面内方向の極性が打ち消し合う一方で,メトキシ体は面内方向に極性が残存する.計算科学的アプローチにより,ジフルオロメチル基およびメトキシ基どうしの接触による分子間相互作用エネルギーがメチル基どうしの接触によるそれに比べて20%ほど増強され,その内訳として静電力の寄与が増大していることを確認した.このような極性置換基は極性/非極性溶媒への直交性の制御に有用であり,重ね塗り耐性の向上につながることが期待される. 次に,層内方向の相互作用に増強に向け,拡張パイ電子骨格の縮環数を5から6に増大させた誘導体を開発した.フェニル体で比較すると,5縮環と6縮環で層状ヘリンボーン分子配列に変化はなく,パイ拡張にともなって結晶-液晶相転移温度が100℃ほど上昇した.また置換基の導入位置を変えることにより,溶媒溶解性を10倍程度,結晶-液晶相転移温度を200~350℃までそれぞれ変調できることを見いだし,塗布/加熱プロセス適性の向上につながる結果が得られた.
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