研究課題/領域番号 |
21K14700
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
及川 格 東北大学, 工学研究科, 助教 (40733134)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | NMR分光法 / 酸化物イオン伝導体 / プロトン伝導体 / 欠陥化学 |
研究実績の概要 |
本年度は、O-17置換方法の開発、既報の酸化物イオン-プロトンデュアル伝導体であるBa7Nb4MoO20の作製を行った。本研究課題では、O-17 NMR分光法により酸化物イオンの化学状態と運動性の解明を行うため、初年度はより効率的なO-17置換法の開発を行った。NMR観測可能な酸素同位体はO-17であるが、天然存在比が0.037%と非常に低いため、NMR観測を行うためにはO-17を濃縮した試料を作製する必要がある。O-17濃縮に必要なO-17濃縮ガスやO-17濃縮水は用途がNMRに限られるため、非常に高価である。そのため、O-17濃縮試料の作製は微量に限られるのが現状である。本研究では、様々なデュアルイオン伝導体に対してO-17 NMR測定を行うため、高置換率で測定に十分な量のO-17濃縮試料を作製できる高効率なO-17置換法の開発が必要であった。 当初は熱処理によりO-17濃縮試料の作製を予定していたが、より簡便なメカニカルミリングによる方法が報告されており、本研究ではメカニカルミリングと熱処理を組み合わせることで数百mg単位のO-17濃縮試料を高効率で作製できる手法を開発した。本手法をプロトン伝導体に適用したところ、局所構造の解析に十分なS/N比でO-17 NMRスペクトルを観測することに成功した。 また、デュアルイオン伝導体の伝導機構の解明のため、デュアルイオン伝導性が報告されているBa7Nb4MoO20の作製を行い、単相試料の作製と材料中へのプロトン固溶が確認され、調査対象試料の作製に成功した。次年度以降は作製された試料のプロトン、カチオン周囲の局所構造解析、O-17濃縮試料の作製と酸化物イオン周囲の局所構造解析に取り組み、伝導機構の解明を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度と次年度は酸化物イオン、プロトンの欠陥構造と運動性の解明に主眼を置いており、本年度でO-17濃縮試料とデュアルイオン伝導体の作製に成功したため、研究はおおむね順調に進んでいる。O-17濃縮試料の作製ではプロトン伝導体について、O-17 NMRスペクトルの観測に成功しており、様々なプロトン伝導体とデュアルイオン伝導体の酸化物イオン周囲の欠陥構造と運動性が解析できる展望が得られている。デュアルイオン伝導体の作製では、既報の材料の合成に成功し、熱重量分析によりプロトンの固溶も確認できたため、プロトンやカチオン周囲の局所構造の解明とO-17 NMRによる酸化物イオン周囲の局所構造の解明に取り掛かれる準備が整っている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、本年度に得られた成果を元にプロトン伝導体、デュアルイオン伝導体の欠陥構造と運動性の解明に取り組んでいく。デュアルイオン伝導体に関しては、既に合成に成功しているBa7Nb4MoO20の欠陥構造の解明と平行して元素置換を行い、元素置換が酸素空孔の形成やプロトンの固溶に及ぼす影響を調査する予定である。欠陥構造の解明ではH-1やO-17 NMR測定に加えて、NbやMo NMRを計画しており、カチオン周囲の局所構造、欠陥構造がイオン伝導性に及ぼす影響の解明を行う。また、今後は欠陥構造の解明を目的とした室温でのNMR測定に加えて、酸化物イオン、プロトンの運動性を明らかにする目的で温度可変NMR測定にも取り組む予定である。既に室温~900℃の高温までNMR測定が行えることが確認できており、室温での欠陥構造解析と高温での運動性解析により、包括的な伝導機構の解明に取り組んでいく。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初O-17濃縮試料の作製に専用の熱処理設備を導入する計画であったが、メカニカルミリングと熱処理により、より高効率でO-17濃縮が可能な手法を開発したため、計画してた専用設備の導入が不要になり次年度使用額が生じた。生じた次年度使用額は、翌年度分として請求した助成金と合わせて、計画しているNMR測定用の試料管の購入や外部施設を利用したNMR測定のための旅費、O-17濃縮水の購入等に使用する計画である。
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