研究課題/領域番号 |
21K14700
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
及川 格 東北大学, 工学研究科, 助教 (40733134)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 酸化物イオン伝導体 / プロトン伝導体 / 固体NMR / 欠陥化学 / 固体酸化物形燃料電池 |
研究実績の概要 |
本年度は酸化物イオン‐プロトンデュアルイオン伝導体であるBa7Nb4MoO20のNb周囲の局所構造の解明を行った。Ba7Nb4MoO20は層状構造を持つ六方晶ペロブスカイト関連酸化物であり、一部の層が酸素の4配位、および6配位の2つの構造を取るため酸素不定比性を有し、それが酸化物イオン伝導性とプロトン伝導性の起源になっていると考えられている。イオン伝導層は4配位、および6配位のNbとMoから成り立っているため、Nbの局所構造を核磁気共鳴(NMR)分光法で明らかにすることでイオン伝導メカニズムの解明につながる知見が得られる。しかし、これまでにイオン伝導層のNb局所構造をNMR分光法で明らかにした研究は知る限り行われておらず、今年度にそれを行った。 Ba7NbMoO20の乾燥試料とプロトン導入試料を作製し、93Nbマジック角回転NMR測定を行った結果、4配位Nbと6配位Nbによるピークの観測に成功した。イオン伝導層には4配位、6配位Nbが含まれ、それ以外の層には6配位Nbのみが含まれるため、4配位Nbの局所構造変化を解析することでイオン伝導層の構造と伝導性との関係を明らかにできると分かった。乾燥試料とプロトン導入試料を比較すると、プロトン導入試料では6配位NbのNMRピークの変化が顕著であり、プロトンは6配位Nbに配位することが明らかになった。 本年度の成果より、93Nb NMR分光法を用いることで、この材料のデュアルイオン伝導性に直接影響するイオン伝導層の局所構造を解析できることが分かった。さらに、プロトン導入によるNb局所構造変化の観測も達成できた。次年度以降では、遷移金属などをドープした際の局所構造変化とイオン伝導性の関係を明らかにし、この材料のイオン伝導メカニズム解明につながる知見を得る予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度では、93Nb NMR測定によりイオン伝導層の局所構造解析に成功したことから概ね順調に研究が進んでいる。本研究の最終目標は局所構造とイオン伝導性の関係を包括的に理解し、新たなデュアルイオン伝導体の開発につなげることなので、局所構造の解析にある程度の目処が立ったことは重要な進展である。Nb以外にもプロトンの状態についても1H NMR測定による解析を進めている。1H NMRスペクトルより、吸着水を含む複数のプロトン状態があることが確認されており、結晶構造、プロトン量と合わせてイオン伝導層中のプロトンがどのような状態で存在しているのかも明らかにしていく予定である。さらに、本年度は高磁場を利用した高分解能93Nb NMRスペクトルの測定にも着手しており、より詳細にイオン伝導層中のNbの局所構造が解析できることが期待される。
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降では、Ba7Nb4MoO20の酸化物イオン、プロトンの存在状態をより詳細に明らかにするため、引き続き行う93Nb NMR分光による解析に加えて、昨年度確立された17O同位体濃縮手法を活用して、17O NMR分光法により酸化物イオンの局所構造を明らかにしていく予定である。また、本年度に行った1H NMR分光による解析から、材料中のプロトン状態について明らかになった知見があるため、今後さらに研究を進めプロトン状態とプロトン伝導性に関する知見を得ていく。さらに、元素置換を行い元素置換がイオン伝導層の局所構造と電気伝導性に及ぼす影響を明らかにし、新規デュアルイオン伝導体の開発に向けて解析を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額は、令和3年度に17O同位体置換用の電気炉設備が不要になった影響で生じた金額が次年度にも繰り越されることで生じた。しかし、NMR使用料が当初の想定よりも多く生じていることから、次年度使用額の一部はNMR使用料に充てる予定である。次年度使用額と翌年度分として請求した助成金は、試薬や測定ガス、NMR試料管などの消耗品の他、17O置換用の濃縮水や2D NMR測定用の重水素ガスの購入に使用する予定である。
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