研究課題/領域番号 |
21K14705
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研究機関 | 工学院大学 |
研究代表者 |
宮川 雅矢 工学院大学, 先進工学部, 助教 (80758350)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 分子動力学法 / 吸着 / 層状粘土鉱物 / モンモリロナイト |
研究実績の概要 |
オクタデシルトリメチルアンモニウムイオンを含む系のモデルを作成したところ,基本面間隔は実験値とよく一致した.ここにアントラセンを吸着させると,アントラセンは層表面近傍にのみ局在した.実験による既報では吸着量を変えた検討までは踏み込めなかったが,本研究では吸着量に応じて層間は直線的に膨潤することを見出した.また,吸着したアントラセンはモンモリロナイト層に対して垂直,かつ互いにおおよそ平衡配向することがわかった.これは,実験で観測されているエキシマー発光をよく説明する構造である.このとき,吸着に伴ってオクタデシルトリメチルアンモニウムイオンは水平から垂直へとその配向を変えることがわかった.以上より,層間の膨潤は主に吸着質であるアントラセンではなく,有機修飾カチオンであるオクタデシルトリメチルアンモニウムイオンの配向変化によるものであると結論付けた. メチルビオロゲンを層間に含む系のモデルを作成し,フェノールを逐次的に吸着する様をシミュレートしたところ,吸着初期過程では水平に配向したフェノールの水酸基は分子平面から飛び出すような配向をとり,モンモリロナイト層表面との強い相互作用が示唆された.吸着分子数を増やしたところ層間は膨潤し,メチルビオロゲンとフェノールはどちらもモンモリロナイト層に対して傾いた配向をとるようになった.ただし,層間の膨潤は被直線的であり,これは膨潤がフェノールの配向によって主に起こるためと考えられる.吸着分子数が多いときは,メチルビオロゲンとフェノールは近接するように分布し,実験で提唱されている電荷移動錯体の形成を説明できることがわかったが,これは吸着初期過程では見られなかったため,錯形成は副次的な機能であることがわかった. 以上のように,有機モンモリロナイト層間への分子の吸着について,層間の膨潤を分子動力学法で計算することができ,さらにその層間構造を解明した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
有機モンモリロナイト層間への単一分子種の吸着については,層間が密な場合はあらかじめ仮想的にに層間を広げることで吸着分子を配置,収縮させることで複合体をモデリングできることがわかっている.また,層間が疎な場合は,空隙に吸着分子を配置することで同様にモデリングできることを見出している. 層間の構造については,有機カチオンまたは吸着分子を構成する原子の座標に着目し,その鉛直方向の分布あるいは原子どうしが形成するベクトルなどを用いてモンモリロナイト層に対する配向角を調べることでオングストローム単位で分布や配向情報を明らかにできている.
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今後の研究の推進方策 |
層間に溶媒を含む系について,分子動力学法による計算法を確立する.これまでに取り組んだ研究内容は,粉体と粉体を混合を想定した吸着反応である.実験では溶液系に関する吸着実験があまたとおこなわれているが,溶媒で膨潤した層間をシミュレーションで再現することは現状では困難を極めており,したがって液相吸着シミュレーションに関する計算手法は未確立である. 今後は,まず溶媒によって膨潤した層間構造を熱力学に基づいて決定し,さらに吸着質を含む系のモデリングに挑戦する.実際には吸着質によって吸着をする・しない場合が存在するがシミュレーション上ではどちらもモデリング可能であるため,実験で観測されている吸着選択性についても構造・エネルギーの観点から明らかにする.
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次年度使用額が生じた理由 |
参加予定だった国際会議がオンライン開催となり,旅費が浮いたため.
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