研究課題/領域番号 |
21K14706
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
齋藤 典生 東京理科大学, 工学部工業化学科, 助教 (20822456)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ペロブスイカイト / ナノ結晶 / ハロゲン化物 / ジェミニ型 / 配位子 / 耐水性 / 発光 |
研究実績の概要 |
ハロゲン化鉛ペロブスカイトナノ結晶は、次世代の光電子材料として多くの研究者の関心を集める。ハロゲン化鉛ペロブスカイトは、従来の化合物半導体よりもイオン性が強く、格子間イオンやハロゲン空孔等のイオン性欠陥が結晶表面や粒界に生じ易く、これらの欠陥で励起状態が失活する。また、結晶表面に水などの極性溶媒が吸着すると、分解反応で発光特性が大幅に低下する。このため、ペロブスカイトナノ結晶の光電子機能を引き出すには、結晶表面を保護する配位子の設計や表面化学状態の制御が重要である。そこで本研究は、複数の配位子をスペーサーで連結し表面保護能と吸着能を向上させたジェミニ型やオリゴメリック型配位子をナノ結晶表面に適用することを検討した。また、ナノ結晶表面に独自の親水処理を施し、水や極性溶媒中での安定な分散・発光の実現を試みた。 ナノ結晶の表面保護に用いる配位子としてジェミニ型配位子 (12-n-12; n = 3-7)を合成し、配位子交換法でCsPbBr3ナノ結晶表面に配位させた。トルエン溶媒中の分散試験および動的光散乱測定 (DLS)から、スペーサー長 (n)が短い組成は凝集でほぼ分散性を示さない一方、n>5では単分散なナノ結晶が得られた。ナノ結晶の発光量子収率 (PLQY)を評価したところ、およそ60-64%であり、高性能配位子として論文で用いられるジドデシルジメチルアンモニウムBr (DDAB)と同程度なPLQYであることを確認した。CsPbBr3ナノ結晶のトルエン分散液 (2.0 mL)に超純水 (0.5 mL)を添加し、発光強度の時間変化を測定したところ、DDAB修飾組成は水添加後2-3時間後にはナノ結晶の分解に伴う白濁化・発光強度の大幅減少が観測された。一方、12-n-12修飾組成は、8 h後も発光強度90%以上を保ち、DDABよりも明らかに耐水性に優れることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
12-n-12修飾CsPbBr3ナノ結晶を合成し、分散性や発光安定性の評価、オレイン酸/オレイルアミンやDDABといった既存配位子との比較試験を実施した。トルエン中で12-n-12修飾CsPbBr3ナノ結晶のDLS測定や発光測定を行った結果、12-n-12 (n>5)で単分散ナノ結晶を得ることができた。PLQYはDDAB修飾組成とほぼ同じ (60-65%)であり、優れた分散性と発光量子収率を示すことを確認した。少量の超純水を添加したナノ結晶分散液の発光強度の時間変化を評価したところ、DDAB修飾組成は水添加後2-3時間後にはナノ結晶の分解に伴う発光強度の大幅減少が観測された。一方、12-n-12修飾組成は、8 h後も発光強度90%以上を保ち、DDABよりも耐水性に優れることを見出した。 CsPbBr3ナノ結晶の表面保護と親水化を両立する新たな表面修飾法として、水中油滴 (O/W)型エマルションを介したナノ結晶表面親水化のプロセス開発に着手した。幾つかの代表的な界面活性剤を用いて、CsPbBr3ナノ結晶トルエン分散液と超純水の混合液を強攪拌し、エマルションを作製した。エマルションの形状や安定性を観察したところ、ビス(2-エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウム (AOT)がO/Wエマルションの作製に適することが分かった。攪拌中にCsPbBr3が急速分解する点が課題であったが、温度を5 °C以下とし、乳化に用いるナノ結晶組成をCs4PbBr6に変更することで、発光性のO/Wエマルションを安定形成することに成功した。作製したエマルションを凍結乾燥して得た緑色粉末に超純水を加えたところ良好に分散し、AOTを用いた乳化工程を利用してナノ結晶表面の親水化が可能なことを検証できた。
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今後の研究の推進方策 |
新たな配位子として、トリメリック型12-6-12-6-12の合成を進めており、既に合成・単離まで完了している。今後は、12-6-12-6-12を配位子に用いてCsPbBr3ナノ結晶を合成し、分散安定性、発光特性、配位子密度などの物性評価を実施する。12-6-12や一鎖一親水基型配位子の結果と比較することで、親水基の数やスペーサー部位の有無がCsPbBr3 ナノ結晶の物性に及ぼす影響を明らかにする。また、表面保護配位子がCsPbBr3ナノ結晶の表面化学状態に及ぼす影響を詳細に考察するため、角度分解X線光電子分光を用いた組成分析を検討する。実験室のAl Kα線を用いた角度分解測定と高輝度放射光を用いた測定を組み合わせることでバルク組成および表面近傍のCs/Pb/Br/N組成比を明らかにする。また、CsPbX3 (X = Cl, I)ナノ結晶についてもオリゴメリック型配位子を用いた表面修飾を実施し、 発光特性・分散安定性・化学耐久性を評価する。これらの実験を通して、CsPbX3の光電子機能を引き出すための配位子設計を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究室で既に保有していた装置で実験装置を自作したため、研究計画よりも研究費を節約できた。 次年度は、上記を利用して放射光を用いた測定を予定する。
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