研究課題
多種類の放射性核種が含まれる高レベル廃棄物の安全かつ低コスト保管法の確立は日本における重要な課題となっている。シンロック固化技術は放射性廃棄物の長期保管方法の一種であり、固化体の候補の一つであるムラタイトは多くの元素を長期間安定に閉じ込めることが可能な次世代のセラミック固化体として期待されている。本研究は、ムラタイトの詳細な結晶構造を明らかにし、安定に閉じ込めることが可能な放射性核種について検討し、得られた結果を基に、多様な放射性核種を高密度に含有可能なムラタイトの合成法を開発することを目的としている。高レベル放射性廃液を模擬した非放射性溶液(模擬HLW)を用いることで、多様な元素から成るムラタイト基シンロック固化体を合成し、HLWの処分に向けた工学適用性について検討した。合成したムラタイト基シンロック固化体の詳細な微構造評価を行った結果、廃棄物負荷量10-40 wt%に対し、シンロック母材の組成を調整することで30 wt%まではムラタイト(特にM3結晶)を主要構成相とする固化体が得られた。放射性核種の代替元素として用いた廃棄物成分はそれぞれムラタイト、ジルコノライト、マグネットブランバイトおよびペロブスカイトなどの熱的・化学的に安定な結晶に固溶することが分かった。一方で、白金族元素はこれらのシンロックに固溶せず、PdO, Rh2O3およびRuO2として生成した。M3結晶が示すメゾスケールの長周期をもつ超構造について元素分析および電子顕微鏡観察を行った結果、鉄イオンを豊富に含む試料が超構造を形成することが明らかになった。超構造におけるカチオンの配列は通常のM3結晶と同じであり、特定の原子座標の占有率(特にZrが占有しやすい8配位の座標)が約100Å周期で変化していると思われる。
2: おおむね順調に進展している
計画通り、おおむね順調に進展している。2022年度は、高レベル放射性廃液を模擬した非放射性溶液(模擬HLW)の処分に対するムラタイト基シンロック固化体の工学適用性について検討した。廃棄物負荷量30 wt%まではムラタイトを主要構成相とする固化体が得られ、ガラス固化体の廃棄物含有率が実質10 %程度であるのに対して、ムラタイト基シンロック固化体では30%以上の高含有化を達成できる可能性が見込まれた。白金族元素を除く主な元素はシンロック固化体として知られるムラタイト、ジルコノライト、マグネットブランバイトおよびペロブスカイトなどの熱的・化学的に安定な結晶に固溶することが分かった。メゾスケール超構造の生成機構について、鉄イオンが超構造の形成に影響することが明らかになった。以上のことから、2022年度の目的はおおむね達成できたと判断した。
2023年度は、引き続き多様な廃棄物に対してムラタイト基シンロック固化体を合成し、安全な固化技術の開発を目指す。メゾスケール超構造の生成機構について、化学組成の影響を詳細に検討し、超構造の形成が耐浸出性等に及ぼす影響について調査する。
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