研究課題
多種類の放射性核種が含まれる高レベル廃棄物の安全かつ低コスト保管法の確立は日本における重要な課題となっている。岩石固化技術(シンロック)は放射性廃棄物の長期保管方法の一種であり、固化体の候補の一つであるムラタイトはチタン酸塩鉱物の一種で、多くの元素を長期間安定に閉じ込めることが可能な次世代のセラミック固化体として期待されている。本研究は、高レベル放射性廃液(HLW)や福島第一原子力発電所事故で発生した燃料デブリに含まれる放射性核種を高密度に含有可能なムラタイト基シンロックの合成法を開発することを目的としている。福島第一原子力発電所事故で発生した燃料デブリには主に核燃料物質(UO2)、被覆管材料および構造材が含まれ、被覆管材料および構造材由来のZrおよびFeを豊富に固溶可能なチタン酸塩鉱物結晶が形成されるように、最適な化学組成や固化条件を模索する必要がある。UO2(あるいはCeO2)、SUS304およびZr粉末を1:1:1(mol)の組成比で混合し、1600℃で3h熱処理し、模擬燃料デブリを合成した。得られた模擬燃料デブリと種々の酸化物試薬を所定の組成比で混合し、1200-1450℃で3-6h焼成した。その結果、模擬燃料デブリの含有量が5.4wt%では化学組成がCa3.2Mn2.1Zr2.34U0.26Ti7.53Fe6.13Cr0.05Ni0.02Al3.9O42のムラタイト単相のシンロックが得られることが分かった。模擬燃料デブリの含有量が10.7wt%および20.9wt%では、固化体の主相はいずれもムラタイトであったが、擬ブルッカイトおよびペロブスカイト相も生成した。模擬燃料デブリを5.4wt%含有した固化体を用い、MCC-1法に準拠して静的浸出試験を実施した結果、28日時点の浸出率の合計は3.2×10-4 g/m2・dであった。
2: おおむね順調に進展している
計画通り、おおむね順調に進展している。2023年度は、福島第一原子力発電所事故で発生した燃料デブリの処分に対するムラタイト基シンロックの工学適用性について検討した。最適な化学組成および固化条件を模索し、廃棄物負荷量20.9wt%まではムラタイトを主要構成相とする固化体が得られることが分かった。模擬燃料デブリを5.4wt%含有した固化体を用い、静的浸出試験を実施した結果、28日時点の浸出率の合計は3.2×10-4 g/m2・dであった。これは、HLWのガラス固化体(従来技術)と比べて数桁低い。この結果から、本実施形態に係る燃料デブリの固化方法により形成された固化体は、地層処分において燃料デブリ由来の放射性核種を長期に渡り安定に閉じ込められることが示唆された。以上のことから、2023年度の目的はおおむね達成できたと判断した。
今年度までに得られた固化体について、詳細な微構造評価および浸出試験を行い、微構造と固化体性能の関係性を明らかにする。また、福島第一原子力発電所事故で発生した燃料デブリの化学成分は非常に複雑であることが予想されるため、実装に向けた実規模での実験について検討する。
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