本研究では、シリコン源やアルミニウム源、構造規定剤(無機カチオンや有機カチオン)、アルカリ源、水を混合した後に一定時間水熱合成することで得られるゼオライトおよびその前駆体に対して量子ビームを最大限に活用した元素選択精密構造解析を実施し、前駆体構造中の構造規定剤周辺環境を可視化することを目指している。 本目的を実現するため、ANAおよびRHOと呼ばれる種類のゼオライト合成系において、非晶質前駆体中のCs周辺の環境評価を実施した。これに先立ち元素選択精密構造解析の測定手法・解析手法に関して検討を実施し、実際に元素選択的な構造解析が可能なことを確認した。詳細な解析の結果、Cs周辺環境がこれら二つの系で特異的に異なること、またそれぞれの合成系でのCs周辺環境の構造形成が比較的大きなクラスター単位で形成すること(~0.7 nm程度)が初めて明らかになった。特に本研究で重要な役割を果たしたX線異常散乱法はゼオライト前駆体において適用されてケースはこれまでなく、その有用性を世界に先駆けて示した。現在、各種量子ビーム実験データを組み合わせた精密三次元構造モデリングの結果も含めて成果が公開されている。また、Baを原料に用いる類似ゼオライト合成系においても今年度の研究活動を通じて本手法を取り入れた論文がすでに公開されており、本アプローチが広く適用可能であることを示すことができた。これらの知見をベースにしたゼオライト合成の合理的な制御につながる研究への展開が今後期待される。
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