ポストリチウムイオン電池として期待される多価イオン電池において、室温動作および高速充放電を達成したカーボン複合体をモデルに、その要因を明らかにすることで、リチウムイオン電池用材料を多価イオン電池用材料に転換するための材料設計指針を得ることを目的としている。これまでに、リン酸鉄リチウム内包型カーボン複合体と高電圧なリン酸バナジウムリチウム/カーボン複合体の創製に成功し、マグネシウム電池において室温動作・高速充放電を達成した。これらの材料について、In-situ X線回折(XRD)・X線吸収超微細構造解析(XAFS)や電子顕微鏡観察などにより、充電中の結晶構造および複合体構造に注目して解析を行った。リン酸バナジウムリチウム/ケッチェンブラック(5:5)複合体では、ナノサイズの結晶(50 nm)を有し、室温・高速充放電条件(充放電時間6分)でも高い容量を発現した。また、結晶がカーボンと直接接合することによって、マグネシウムの拡散経路が拡張され、高速充放電に有利な結晶構造に変化していることが示唆された。一方で、ケッチェンブラック(7:3)複合体や多層カーボンナノチューブ(5:5)複合体では、結晶が大きくなり(約100 nm)、容量が低下した。以上より、カーボンと接合し、結晶をナノオーダーにダウンサイジングすることが、マグネシウム電池系で高速充放電を実現する上で、特に重要なファクターであることが明らかとなった。また、In-situ結晶構造解析により、リチウムイオン電池系で二相共存反応を示していた電位範囲において、マグネシウム電池系では固溶体反応を介して充放電が進行していることが明らかになった。このような反応挙動の変化によって、室温動作・高速充放電を実現したと推測された。以上の結果は、様々な多価イオン電池の超高速正極の合成戦略や反応挙動の知見を提供するものであった。
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