研究課題/領域番号 |
21K14735
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研究機関 | 地方独立行政法人大阪産業技術研究所 |
研究代表者 |
加藤 敦隆 地方独立行政法人大阪産業技術研究所, 森之宮センター, 研究員 (40826161)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 硫化物固体電解質 / 電極電解質界面 / 全固体電池 |
研究実績の概要 |
本年度は、柔軟な構造を有する固体電解質の創製として、リン―窒素結合を主骨格とする環状ホスファゼンを出発に用いた合成に取り組んだ。環状ホスファゼン(NPCl2)3と硫化リチウムを、ボールミルを利用してメカノケミカル反応させ、ホスファゼン硫化物の作製を行った。X線回折測定の結果、得られた粉末に原料由来の回折ピークは含まれず、代わりに副生成物である塩化リチウムが検出されており、目的としていた置換反応が起こることが示唆された。一方、他の回折ピークは観察されなかったため、作製したホスファゼン硫化物は、非晶質構造であることがわかった。このサンプルに対して、ラマン分光分析により局所構造の同定に取り組んだ。423 cm-1付近にピークが観察されており、これは既存のLi3PS4電解質のP-S結合由来のピーク位置(421 cm-1)と近い位置にあるため、置換反応が進行し、P-S結合が形成されていることが示唆された。 次に、副生成物の塩化リチウムを溶剤により除去し、得られたホスファゼン硫化物の固体粉末を室温プレス成形した。成形体の断面を電子顕微鏡で観察したところ、粒子の形がほとんどわからないほど非常に緻密になっていることが明らかとなった。したがって、環状ホスファゼンを出発として作製したこの硫化物材料は、加圧によって変形しやすい柔軟な特性を有していることがわかった。また、粉末成形体は、10-5 S cm-1台の比較的高いイオン伝導度を有していることが明らかとなり、ホスファゼン化合物を用いた新たな固体電解質の合成に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
環状ホスファゼンと硫化リチウムをボールミルで反応させて合成したサンプルについて構造解析を行い、成形性やイオン伝導性を調べた。ホスファゼンの活性ハロゲンが硫化リチウムの硫黄と置換することを明らかにした。また、得られた環状ホスファゼンを出発とした硫化物は、比較的高いイオン伝導性をもち、かつプレスによって変形しやすい柔軟な特性を有していることがわかった。一方で、X線光電子分光やNMR測定といった構造解析では帰属不明なピークが多く、十分な解析には至っていない。また、液相中での環状ホスファゼンと硫化リチウムの反応について検討したが、硫化リチウムが想定していたTHF溶剤には溶けなかったため、反応が固体表面でしか進行せず、別の溶剤の検討の必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、環状ホスファゼンを出発としたボールミル合成サンプルについて構造解析を行ったが、まだ検討不十分なため、引き続き解析を進める。また、液相合成については、反応溶剤の検討を進めながら、一部ではあるが、反応が進行している様子であるので、置換反応が実際に進行しているかについて構造解析を行う。さらに、サイクリックボルタンメトリーを用いた電気化学的安定性の評価や弾性率・成形性といった柔軟な機械的特性についての評価を行う。次年度は、本年度や引き続きの検討をもとに、高分子状ホスファゼンを出発とした合成と評価についても同様に検討を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度は、材料の機械的特性を評価するために、超音波パルス装置を購入予定だったが、想定していた装置は、新しく開発した材料に対しての有効性が低い可能性があったため、年度内の購入を見送った。次年度に、別の測定方法も含めての評価検討を行う。また、次年度での特許出願を予定しており、当該年度での研究成果の学会発表を見送った。出願後に発表を行う予定である。
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