研究実績の概要 |
細胞内では、特定の蛋白質群が濃縮した区画(オルガネラ)が形成され、機能を発現する。そこで、筆者は細胞内で任意の蛋白質群を集積化し、人工オルガネラを構築する技術を確立できれば、細胞工学に応用展開可能な基盤技術になると考えた。本若手研究課題の目標として、「非膜オルガネラとして知られる液-液相分離構造の合理的な構築法の確立」を設定した。昨年度は、自己集合性ペプチド(Self-assembling peptide, SAP)を用いて、細胞内で蛋白質超分子集合体を合理的に作成する手法を報告した(Nat. Commun., Chem. Commun., ACS Synth. Biol.)。しかし、これらは液-液相分離特有な流動性のある集合体ではなかった。そこで本年度では、SAP配列を検討し直すことで液滴の物性を有する集合体を細胞内で人工構築することを目的に定めた。実際に、親水性残基をカチオン性アミノ酸に置き換えたペプチドを設計し、蛍光蛋白質に融合した。これを細胞内で発現し共焦点顕微鏡で観察した結果、細胞内で球形の集合体となることが判明した。更にFRAP(光褪色後蛍光回復法)によって集合体は液滴の性質をもつことが明らかとなった。この詳細な液滴形成メカニズムを調べるため、固相合成法によりペプチドを合成し、その自己集合特性を調べたところ、このペプチドはATPに依存して可逆的にアミロイド様集合体を形成することが分かった。本研究は、アミロイド様フィブリルと液滴形成の関係をbottom-upアプローチによって明らかにできただけでなく、完全なる人工配列で構築した相分離液滴の先駆的な一例となり、今後の相分離液滴の基盤的研究の礎となる。
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