研究課題/領域番号 |
21K14740
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
松本 大亮 広島大学, 医系科学研究科(薬), 助教 (20889381)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ゲノム編集 / 遺伝子修復 / 相同性組換え / 細胞周期 |
研究実績の概要 |
ゲノム編集技術では、標的とした遺伝子配列をヌクレアーゼを用いて切断し、細胞の持つ遺伝子修復系を介して編集する。この修復過程には相同性組換え(HR)と非相同末端連結(NHEJ)の大きく二種類がある。HRは正確な修復が可能な一方で、その効率が低いという課題がある。そこで、現在主に用いられているゲノム編集ツールであるCRISPR-Cas9システムを用いて、HRを介した編集効率の向上を試みている。これまでに、Cas9ヌクレアーゼ(Cas9)を阻害するAnti-CRISPRと細胞周期に依存して発現量が変化するCdt1のユビキチン化に関与する配列を融合した人工Cas9阻害剤を利用することで、HR効率が向上する新規手法を発見した。この発見をもとに、CRISPRよる切断とHRおよびNHEJによる修復過程について修復方法の決定に重要な因子は何なのかを明らかにする。 本年度では、Cdt1とは異なる細胞周期依存的な発現パターンを示すGemininをAnti-CRISPRに融合させた阻害タンパク質を新たに構築し、相同性組換えへの影響を評価した。その結果、相同性組換えによる標的配列への目的遺伝子配列の挿入が見られなかった。このことから、anti-CRISPRにCdt1を融合することによる細胞周期依存的なCas9の活性化の機能の有効性が示された。また、Cas9の発現タイミングを変更するために、Cas9とGemininを融合したタンパク質と人工Cas9を発現するベクターも構築した。また、切断後断面における修復経路の差を比較するために、人工Cas9阻害剤とCas9ニッカーゼを発現するベクターも構築した。各種ベクターからの目的タンパク質の発現をウエスタンブロットで解析した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の研究実施計画では下記の項目を立てていた。下記項目はおおよそ実施することができたため順調な進展と評価している。 1.「DNA切断タイミングと標的配列におけるHRおよびNHEJの選択性評価」 構築したAcrIIA4-Cdt1に加えて、Gemininを融合させたAcrIIA4-Geminin、よりS期特異的なAnti-CRISPRの分解(AcrIIA4-Cdt1(1/100)Cy(-))やS期以降の速やかなAnti-CRISPRの分解(AcrIIA4-Cdt1(1/100)Cy(+))が可能となるCdt1の変異体を利用した複合体を新たに構築し、それぞれの複合体を用いた場合の標的配列におけるHR/NHEJ比の評価をサンガーシークエンスと解析ツールを利用して行う。 2. 「DNA切断タイミングと細胞ストレス応答の評価」 構築した各細胞周期で切断を行うCRISPRシステムを用いた細胞内でのDNA切断反応に伴う細胞周期停止やストレス応答をPI染色による各細胞周期にいる細胞割合の評価及び、ATM/ATRキナーゼ、Chk1キナーゼ、Chk2キナーゼ等のDNA損傷によるストレス応答に寄与するタンパク質の発現量変化をウエスタンブロットで評価することにより確認する。 未消化の項目として、2の「DNA切断タイミングと細胞ストレス応答の評価」がある。これに関しては現在実施中である。また、次年度行う予定であった「HRを優先的に引き起こすために必要な要素の解明」について、切断断面の異なるCas9ニッカーゼを用いた評価を前倒しで本年度に着手している。
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今後の研究の推進方策 |
DNA切断タイミングと細胞ストレス応答の評価、Cas9タンパク質とHR及びNHEJに関する修復タンパク質の局在評価について研究を進めていく。既に構築したAnti-CRISPRの発現タイミングを変えたものを利用し、細胞内のストレス応答や細胞周期進行への影響を評価する。また、切断タイミングと修復タンパク質との関係性についても、蛍光レポーター細胞の構築を行い、評価していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルスのパンデミックによる学会のオンライン開催に伴い、国内旅費の利用が予想よりもなかった。所属大学の事業プログラムでの研究助成をいただけたため、想定していたよりも物品費の使用が少なかった。そのため、次年度の消耗品費用として使用する予定である。
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