2022年度では、Cas9変異体とAcrIIA4-Cdt1及びAcrIIA5-Cdt1を組み合わせることによって、相同性組換え効率の向上とオフターゲット作用の減少が両立できるのかを評価した。その結果、Cas9変異体単体の場合もeCas9とHF1Cas9において相同性組換え効率が向上することがわかった。また、Anti-CRISPRを用いた細胞周期依存的な活性化により、HF1Cas9においては相同性組換え効率の向上が確認された。しかし、eCas9では相同性組換え効率は向上しなかった。この結果から、AcrIIA4やAcrIIA5の阻害活性がCas9変異体によって異なる可能性が示唆された。また、細胞周期依存的な活性化による相同性組換えの向上において特にAcrIIA5では標的配列のTm値に大きく依存することがわかった。 研究期間全体として、細胞周期依存的なCRISPRの活性化という技術を軸に、研究を行った。本研究課題を通じて細胞周期に依存したCas9の活性化という軸のみでは、相同性組換え効率の向上にある程度は寄与するが、大きな向上とまではいかないことがわかった。その一方で、Cas9変異体毎に相同性組換えの効率が異なるという発見やanti-CRISPRを用いた細胞周期依存的な活性化系において相同性組換えへの効果に違いがあったという点は興味深い発見であった。今後はこれらの観点から相同性組換えとCas9の酵素特性に基づいた解析やより詳細なAnti-CRISPRとCas9の相互作用解析を行うことによって、さらなる相同性組換えの向上に必要な条件を探索したいと考えている。
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